児童ポルノを許さない社会とするための緊急アピール(平成22年3月31日)
児童ポルノを許さない社会を実現するための弁護士フォーラム 代表幹事弁護士 後藤啓二
わが国は「児童ポルノ天国」と諸外国から厳しい批判を浴びています。
児童ポルノは「諸悪の中の最大の悪」です。児童ポルノの多くは子どもに対するおぞましい性的虐待を映したものであり、そこに映っているのは犯罪そのものです。そしてその対象は今や乳幼児にまで拡大しています。
児童ポルノの被写体とされた子どもの多くは顔をさらされたまま、その画像はインターネット上に永遠に流通し、幼くして性的虐待を受けた者の苦しみは生涯続きます。「児童ポルノを楽しむだけでは誰も傷つけていない」ことは決してないのです。抵抗することのできない子どもに苦しみを与え、未来を奪うような児童ポルノの存在を社会が容認することは、到底許されるものではありません。
わが国で1999年に児童買春・児童ポルノ禁止法が制定されましたが、児童ポルノの単純所持(他に提供する意図のない所持)は禁止されず、写真・ビデオと同程度に写実的に描写されたCG(コンピュータグラフィックス)や漫画は規制の対象となっていません。
世界的にみれば児童ポルノは所持しただけで犯罪であり、ほとんどの欧米諸国では単純所持が禁止され、G8で禁止してないのはロシアと日本だけです。また、CGや漫画も多くの国で規制の対象とされ、2009年8月、わが国は国連女子差別撤廃委員会からこれらを禁止することを要請されています。
2007年の世論調査では大多数の国民が児童ポルノの単純所持の禁止(90・9%)及びCG・漫画も規制の対象にすること(86・5%)に賛成しています。
2009年6月、自民党・公明党からは単純所持を禁止することを内容とする児童買春・児童ポルノ禁止法の改正案が国会に提出されましたが、民主党は「児童ポルノ」の範囲を狭めたうえに「有償あるいは複数回の取得」を禁じる対案を出すなど単純所持の禁止に反対し、いまだに規制が実現されていません。かかる立法府の行為は、国民の意思に真向から反し、子どもに対する性的虐待を野放し・助長するものと言わざるを得ません。
我々は弁護士として社会正義の実現をその使命としております。いまだに有効な対策を打ち出さない立法府に対して、早急に児童ポルノの単純所持の禁止を始めとして必要な法制度の整備を働きかけるとともに、プロバイダ、検索サービス会社等関係業界に対しても協力を要請するなどの取組みを推進するために、「児童ポルノを許さない社会を実現するための弁護士フォーラム」を結成することとした次第です。当面の要請活動は下記のとおりです。
1 児童買春・児童ポルノ禁止法を改正し、今国会で、
- (「児童ポルノ」の範囲を狭めることなく)児童ポルノの単純所持を禁止し、罰則をもって担保することを実現するとともに、その後速やかに、
- 写真・ビデオと同程度に写実的に描写されたコンピュータ・グラフィックス、漫画を規制の対象となる児童ポルノに追加することを実現する。
- 要請先:民主党・自由民主党・公明党・国民新党・社民党・共産党・みんなの党
2 児童ポルノの画像がインターネット上で検索・閲覧されることを防ぐためのブロッキング等の対策を実施
- 要請先:ニフティ(株)、NECビッグローブ(株)、ソネットエンタテインメント(株)、NTTコミュニケーションズ(株)、(株)NTTぷらら、(株)NTTドコモ、KDDI(株)、ソフトバンクモバイル(株)、ヤフー(株)、グーグル(株)、マイクロソフト(株)、(社)日本インターネットプロバイダ協会、(社)テレコムサービス協会
3 性的虐待を受けた子ども、児童ポルノの被写体とされた子どもの身体的・精神的ケアのためのカウンセリング、治療を行うための体制整備のための予算措置を講ずる。
- 要請先:厚生労働省
4 児童ポルノの製造行為である性的虐待行為や児童ポルノ提供罪などについて捜査体制を大幅に増強し、一人でも多くの児童性虐待者を検挙する。
- 要請先:国家公安委員会・警察庁、法務省
(その後の経過)
上記緊急アピール発出後、各要請先に直接出向き、あるいは要請文を郵送するなどして、対策を講じるよう要請しました。民主党に対しては党の担当副幹事長である樋高剛議員に直接面談して法改正を強く要請しましたが、まったく無視されたままです。児童ポルノの単純所持の規制は、自民党・公明党が賛成しており、民主党さえ賛成すれば成立するのです。しかし、民主党は、賛成するどころか、平成23年8月、単純所持を禁止せず、かつ、規制の範囲を従前の民主党案より狭めるという内容の法改正案をまとめ国会に提出しています。
児童ポルノのブロッキングについては、平成23年4月、大手プロバイダ6社により運用が開始されましたが、他の要請については特段の取組みはなされていません。