1 本年5月17日、離婚後の父母双方に親権を認める共同親権の導入を内容とする民法改正が成立しました。子のいる夫婦の離婚に際しては、共同親権にするか、単独親権にするかは父母が協議によって決め、意見が対立する場合や協議できない場合は家庭裁判所が判断、子に対する虐待のおそれがあるなどと認められる場合には、家庭裁判所は非虐待親の単独親権としなければならないこととされました。
私は、共同親権制度自体に反対するものではありませんが、導入するのであれば、最低限、家裁が虐待親に共同親権を認めることのないよう、すなわち、少なくとも児童相談所が関与した事案については児童相談所が虐待を見逃すことなく正確に虐待リスクを判断し、家裁から照会を受けた場合には正確に虐待の有無等につき回答することができる態勢を整備することが必要と考え、本年3月25日、法務大臣、最高裁長官、子ども政策担当大臣、国家公安委員委員長あてに下記要望書を提出し、記者会見しました。
https://www.thinkkids.jp/wp/wp-content/uploads/2024/03/PDF20230321youbousyo.pdf
要望内容は本要望書に詳しく記載しておりますのでお読みいただくとして、産経新聞2024年5月18日では、下記のとおり、私のコメントのあと最高裁の戸倉長官のコメントが紹介されています。
児童虐待防止に取り組むNPO「シンクキッズ」代表理事の後藤啓二弁護士は虐待の恐れなどを裁判官が「正確に判断できるか心もとない」と指摘。児童相談所と警察が虐待情報を共有して家裁に提供できる仕組みの導入を求める要望書を3月、法務省に提出した。・・・最高裁の戸倉三郎長官は今月3日の憲法記念日にあわせた記者会見で改正民法について「裁判官の知見を深めていく努力が不可欠」と指摘。「的確に判断できる体制を作っていかなければならない」としている。
(なお最高裁のHPでは次のように記載)
子どもの一時保護の延長に関する審査、あるいは今後法律が成立した場合の共同親権に関する審査において、表面的に出ているところだけではなくて背後にあるところまできちんと見据えた判断ができるかというのは、家裁にとってかなり大きく難しい課題であろうと思っています。・・・家庭裁判所の態勢については、事件には量と質という問題があり、量的な問題も当然出てまいりますけれども、やはり判断の難しさといったことに対する対応も両方考えていく必要がありますので、法律でそういう事件が家庭裁判所の責務とされたときは、こういったことを的確に判断できる態勢を作っていかなければならないと考えています。
2 最高裁長官ご指摘の、作っていかなければならない「的確に判断できる体制」というのは、共同親権についていえば、児童相談所と警察とが連携して虐待の有無、程度をできる限り正確に判断し、それを家裁に情報提供する体制なのです。「裁判官の知見を深めていく」ことではないのです。いくら知見を深めても家裁には虐待に関する情報がないのですから、(神ならぬ人間の身で)虐待の有無、程度について正確に判断できるはずがないのです。長官ご指摘のとおり「表面的に出ているところだけではなくて背後にあるところまできちんと見据えた判断」が必要で、それは、現場の児童相談所と警察がいかに正確に虐待リスクを判断する態勢を整備し、それを家裁に情報提供できるかという問題であり、これにつき国として責任を有する子ども家庭庁と警察庁がいかに法整備と態勢の整備を図っていくかという問題なのです。ですから、共同親権制度を導入、運用する主体である最高裁判所と法務省は、家裁の態勢や裁判官の知見を深めていく問題ではなく、両省庁にそれを働きかけ、そのような態勢を整備しなければならない立場にあるということなのです。
これまで、全国の児童相談所や厚労省、子ども家庭庁、警察庁に縦割りを排し連携した活動を要望してきた経験から嫌な予感がするのですが、最高裁・法務省も、共同親権制度の運営について、特に虐待の恐れの有無の判断について自分たちだけでー縦割りのままー行おうとしているのではないか、それで判断を誤っても自分たちは悪くない、法律で連携してやれとは書かれていないから、ということになるのではないかということです(だから法律の整備を要望しているのですが今回も無視されました)。
3 一方、今月8日に、法務省が共同親権導入のための関係省庁連絡会議が開催されました。法務省・最高裁だけでは円滑な対応は望めないという認識はあるようですので、この場で、こども家庭庁と警察庁に対して虐待リスクを正確に判断する態勢を整備し、家裁が誤って虐待親に共同親権を認めることのないよう協力してほしい旨強く働きかけることを期待しています。
最高裁・法務省が、ゆめゆめ、「家裁の体制を増強しました、裁判官の研修もやりました」「家裁が虐待親に共同親権を認めてしまう事例が続出していますが、それは児童相談所の虐待リスクの判断が甘いことが原因であり、裁判所のせいではありません」ですませることのないよう、最高裁・法務省、子ども家庭庁、警察庁に強く働きかけてまいります。