ブログ35 新たなご賛同者の紹介と厚労省専門委員会での意見発表

1 いつも署名活動にご協力賜っておりますことに厚くお礼申し上げます。このたび新たなご賛同者として、
  深澤直之弁護士(右田・深澤法律事務所)
  南賢一弁護士(西村あさひ法律事務所)
  大澤寿道弁護士(東京ヴェルデ法律事務所)
  川本瑞紀弁護士(みずき法律事務所)
  におなりいただきました。厚く感謝申し上げます。

2 2014年10月31日、厚生労働省社会保障審議会児童部会の第3回児童防止対策に関する専門委員会で意見を述べてきました。7分しか時間がありませんでしたので、十分に意見を述べたとは言えませんでしたが、委員の方の発表も大変有意義なものでした。この議事録の概要は近々厚労省から公表されると思います。
 わたしの提出資料は「関係機関の怠慢・制度の不備により虐待死が防げなかった事件とそれを踏まえとるべき対策」と題したもので、次のとおりです。なお、資料の最後に厚労省と警察庁、総務省への質問を記載しています。回答が得られましたら別途報告します。

[2014.10.31厚生労働省社会保障審議会児童部会 第3回児童虐待防止対策のあり方に関する専門委員会提出資料]

※提出資料は上記をクリックすると、PDFにてご確認いただけます。

  時間の関係で2~3割しか話すことができませんでしたが、用意していた原稿は下記のとおりです。委員の方と副大臣会議のメンバーの副大臣の方には別途提出資料とともにお届けさせていただく予定ですが、ご関心のある方はお読みいただければ幸いです。

(1)本委員会への期待

 私の提出資料では、ご覧いただいたとおり、実際に起こった数多くの虐待死事件を例にあげ、虐待死を防ぐことが可能であったにもかかわらず、みすみす虐待死に至らしめた関係機関の取組みの問題や制度の不備を次のとおり5つあげております。
①児相が家庭訪問しない、あるいは間が空きすぎてその間に殺されてしまう
②児相の一時保護及びその解除が子どもの命を最優先にするものとなっていない
③所在不明児童に関する情報を共有して真面目に探そうとしない
④子育て困難な妊産婦の把握が不十分
⑤虐待を受けた子どもへの精神的な治療・カウンセリングがなされていない
(⑤は虐待死の防止に直結するわけではありませんが、虐待を生き延びた子どもが思春期以降人生を前向きに生きていくためには不可欠なものですので入れております。)
 このような関係機関の取組の問題点や制度の不備を解消することにより、これまでみすみす虐待死させていた事例において虐待死を防ぐことができることになると考えています。国には、これらの問題に対する対策をとることにより、厚木市の理玖ちゃんや横浜市のあいりちゃんや葛飾区のあいらちゃんのような、本来国や自治体により救うことができたにもかかわらずみすみす虐待死させてしまったというような子どもを二度と出さないようにすることが求められているのです。是非この委員会でそのような答申が出されることを期待しています。

(2)法改正が是非とも必要

 本日もっとも言いたいことは、法改正しなければ何も変わらないということです。
 これまで悲惨な虐待死が起こるたびに、私がフォローしはじめたのは平成16年の岸和田市の中学生餓死寸前事件からですので、もう10年以上、虐待死が起こるたびに検証のための委員会が設置され報告書が出されていますが、どれも同じことが書かれています。「関係機関の連携が足りなかった」「児相職員の危機意識が足りなかった」「児相の体制強化が必要」「要対協が機能していなかった」などなど、でも、この10年で数百人から1000人程度、もしくは闇に葬られているものも入れればそれ以上の子どもが虐待死させられ、多分数百回程度は委員会が設置され検証報告書が出されていると思いますが、何も変わっていないのです。虐待死事件のたびに検証委員会を設置して同じような提言を出し続けていますが、それで何も変わらない。国も自治体も報告書の提言に従う義務などありませんし、他の自治体の出した報告書なんてよんでもいないところがほとんどでしょう。
 厚労省や文科省も何か起こるたびに、児相や自治体宛に通知を出しています。しかし、何も変わらないし、多くの児相や市町村に無視されてい
るのが実情です。ご丁寧に通知には「なお、この通知は、地方自治法245条の4第1項の規定に基づく技術的な助言である」と書かれています。これは自治事務ですから、国は自治体に指示できません、ご参考まで、といっているのですね。このような通知には強制力はありませんから、自治体も無視されたといわれることこそ心外だ、そもそも従う義務はないのだからということだと思います。ですから、児相や自治体に従わなくていいですよとわざわざ書いている通知をいくら出しても、また、検証報告書を何百回作成しても何も改善されないのです。
 児相や自治体、警察に有効に機能する対策を出さなくては意味ありません。そのためには、法律の改正が絶対に必要です。ストーカー対策もストーカー規制法ができてから、警察は真面目に取り組みました。それまでは「殴られたら来てください」と言っていたのです。法律ができてようやく真面目に取り組み始めたのです。通知や報告書をいくら出しても、児相や自治体の職員には何さほどの効果はありません。
 たとえば「他機関と連携してください」とか「情報の共有してください」と自治体や児相に通知を出してもほとんど動きません。そもそも通知には強制力はありませんから従う必要はないですし、「やっていますか」という国からの調査に対しても、自治体は「必要なことはやっています」と回答するのです。「やってないものは必要ないものです」、あるいは「守秘義務があるから、個人情報だからやっていません」、とちゃんと言い訳まで用意できているわけです。
 児相や自治体、警察に必要な情報共有や実質的に連携して効果ある活動を行わせるためには、具体的に、こういう情報をこういう機関に提供しろ、3機関でこういう形で連携して虐待家庭を訪問しろなどと法律で義務付けするしかないのです。法律には従う義務がありますから、強制力がありますから、これらの機関は従います。しかし、法律で義務付けしない限り―現行法では「情報提供できる」という規定はありますが、情報提供を義務付ける規定はないのですー守秘義務や個人情報保護など情報提供しないことを正当化する事由があり、また、縦割り意識が強いことから、他機関との連携なんか考えられない、というのが日本の官僚組織です。法律で義務付けしないとこれらのことを行わないのが日本の官僚組織です。私は警察庁に23年間勤務し、都道府県警察にも5府県で勤務しましたが、中央も地方も同じです。

法律に規定してようやく、ああこれは義務なんだな、守秘義務とか個人情報を言い訳としてやらなくてもすむわけでないのだなと、他機関からの要請を拒んではだめなんだな、こういう方法で連携しなくてはダメなんだな、ということがようやく浸透するのです。法律を作ることにより職員の意識が変わり、やらないとだめだという気になるのです。
 そして、都道府県知事や市長は、法律ができることで、児童虐待問題を優先課題として位置づけ、予算もつけ、人員もふやし、優秀な人材を配属し、研修を行い、知事や市長から県警本部長に連携しましょうと呼びかけるということになるのです。こうした効果が法律制定・法律改正にはあります。法律により劇的にいい方向に変わるのです。是非法改正が必要だということをご理解いただきたいと思います。

 また、一時保護の適正化についても同様です。時間の関係で触れませんが、一時保護を適正化するには、法律による基準の策定と医師の専門的な見解には従うこと、市町村、病院、保育所等の通告先の見解を尊重することを法律で規定することが必要であると考えています。そうでなければ、いつまでも、親の言いなりになり、子どもを死に至らしめている運用は改まらないことは、提出資料記載の数多くの虐待死事例が示しています。

(3)賛同者の方の声、お気持ち

 次に、多くの賛同者や署名してくれた方の声をお知らせさせていただきます
 本署名活動のご賛同者として、日本医師会、産婦人科医会、小児科学会などの医師の団体や病院、幼稚園関係団体、犯罪被害者団体に多くなっていただいています。これらの方は、私が直接お伺いして、こういう内容で法改正をしたいと思っています、ご賛同いただけませんか、とお願いすると、二つ返事で、もちろんです、と言っていただいています。初めてお会いする方が多かったのですが、みなさんそういっていただきました。賛同いただけなかった人は一人もありません。
 それほど、皆さんいいかげんに何とかならないのか、と思っておられるのです。このままだとだめだというのが多くの方の気持ちです。
 そうした中で、官邸に「副大臣会議」が設置されました。官邸はわたくしどもと同様の問題意識を有しておられるように感じています。ただ、厚労省や警察庁が果たしてわたくしどもが求めている案にどのようなお考えをお持ちかは分かりません。賛成していただけるのか、反対されるのか。
 是非委員の皆さん方には、先ほど申し上げたように国民のほとんどが有効な対策を講じることを望んでいるということをご認識いただいて、救うことができたはずでありながら救うことができず、虐待死させられてしまったという子どもが二度とでないような有効な対策、もちろん法改正によってですが、を打ち出していただきたいと思います。

(4)有効な社会インフラとしての警察の活用

次に有効な社会インフラとしての警察の活用ということについてお話しいたします
 虐待が増え続ける中で、圧倒的に人手不足で、虐待通告への対応という危機対応業務の訓練も受けず、24時間勤務でもなくパトカーもなく、そもそもそのような組織ではない児相にすべてを委ねている現行のシステムは崩壊しています。親から暴行や暴言を受ける職員も少なくなく、バーンアウトする職員も多いと聞いています。イギリスやアメリカでは、警察と児童相談所のような部局が虐待情報を共有し、実質的に連携して対応していますが、日本はほとんどしていません。
 有効な社会インフラとしての警察を活用することしかありません。24時間体制で、警察署の数は1200か所(ちなみに児相は200か所)、交番・駐在所勤務の警察官は10万人程度(ちなみに児童福祉司は2,800人)いるのです。機動力があり、暴力的な親にもひるみません。虐待家庭への訪問も、警察が加わることにより、飛躍的に頻度が上がり、児相の職員の指導を歯牙にもかけない親に対しても効果が期待でき、子どもの安全が大幅に確保できることになります。わたくしどもの求める改正の柱は、児相と市町村と警察が虐待情報を共有し、児相と市町村と警察が人員を出し合ってできるだけ頻繁に家庭訪問することです。こうした取り組みにより、虐待がエスカレートすることはかなり防ぐことができ、虐待死は大幅に減らすことができると確信しています。

 3つの機関の職員が訪問することにより、児相の職員とは信頼関係を築けなかった親も、市町村の職員や警察官とは信頼関係を築けるケースも当然でてきます。私が大阪府警の生活安全部長をしていたころ、少年課に虐待対応チームがあり、そこのかなりの仕事は、一度、警告やら指導した親からの電話相談に応じることでした。虐待してしまつた親から引き続き相談を受けているのです。虐待するにはその原因があるわけで、親の悩みを聞いてあげることだけでも虐待を思いとどまっているようです、と捜査員は言っていました。生活に困っている親、虐待してしまう親をいかに支援するか、その前段階としていかに相談に乗ってあげれるか、ということが虐待防止には重要です。警察が家庭訪問に参加することにより、親が相談できる人が増えることになるわけで、それは子どものみならず親も支援することになると考えています。
 警察には年間155万件の困りごと相談が寄せられています(平成24年)。交番にもよく相談に来る人が多いですし、一人暮らしのお年寄りや子どもの非行に悩んでいる家庭にはよく警察官が訪問して相談にのっています。今でも虐待に悩む家庭を訪問し、困りごと相談にのっている交番の警察官や大阪府警少年課の虐待対応に当たっている警察官のような人も少数ながらいると思います。それをちゃんと制度化して、一人でも多くの悩んでいる親の相談に乗り、子どもの安全を確保しようということです。

 また、名古屋市で中二の男子生徒が殴り殺された事件では、児相は何度も家庭訪問し、そのたびに同居男性に指導していたのですが、実は児相の職員の指導など歯牙にもかけなかったわけで、殴り殺されてしまいました。暴力的な父親や同居男性に対しては、警察官の訪問はかなりのプレッシャーになり、抑止効果は大きいと思います。

(5)児相の虐待通告対応業務からの解放、新たなシステムの整備

 核家族化、地域社会の連帯意識の希薄化で、今後とも虐待は増加し続けることが予想されます。昔なら同居している祖父母がとめた、長屋では隣の声が筒抜けで近所の人がとめた、というような虐待のエスカレートを防止する家庭や地域社会の機能はほとんどありません。そうした中で、現行の児相が虐待対応から親への指導から一時保護からその先まですべてを担うというシステムは破たんしています。24年間で67倍に増えた通告件数やここに記載した虐待死事例はその何よりの証拠です。
 児童相談所の数は200か所くらいしかありません。児童福祉司は2,800人しかいないのです。いったい、児童福祉司一人当たり案件を何件抱えているのか、それで家庭訪問の間隔は何日、あるいは何か月に一回になっているのでしょうか。到底子どもを守るために十分な虐待通告への対応や継続的な家庭訪問などできないのではないでしょうか。厚労省にはこれらのデータを出してほしいと思います。データからもこれ以上はできない、ということを言うべきではないでしょうか。
 ますます虐待が増え続ける中で、圧倒的に人手不足で、虐待通告への対応などそもそも想定されていない児相にすべてを委ねている現行のシステムを続けることは不可能です。イギリスやアメリカのように、警察と児童相談所のような部局との間で虐待情報を共有し、実質的に連携して対応するしか現実的には改善の方向はないのです。多分、児相の現場はこのような方向を歓迎していただけるのではないかと思いますし、厚労省の本音も、合理的にお考えいただくと、そうではないかと推察いたします。

 警察はこれまで行っていない取組みを行うことになりますから、歓迎することはないでしょう。現役の人の中には、絶対にやりたくない、OBのお前が余計なことを言うな、と考えている人もいるだろうなと思います。
 しかし、平成14年の犯罪発生件数285万件に比し、平成25年は132万件と半数以下になっていますし、そもそも、虐待にさらされている子どもを救うのは警察の本来業務です。それは「児相の仕事」という感覚がもしあるとすれば、それこそ国民からするとおかしいのです。
 いまは110番があれば現場に急行し、児相に虐待通告するだけで、あとは事後的な捜査しかやっていません。虐待通告後に児相や市町村とともに家庭訪問して子どもを守り続けるということは行っていないのです。なすべきこと、できることをしないで、子どもが殺されてから捜査して検挙しても胸を張れる仕事ではありません(しかも虐待事案は密室で行われるため親が否認すると立証が困難で起訴を断念するケースも多く、起訴された事案でも本年は広島地裁と大阪高裁でそれぞれ無罪判決が出されており、捜査・検挙すら十分に行われていないのです。)。
 警察に対する税金の使い道として、虐待のエスカレートを防ぎ、子どもが殺されないように家庭訪問して子どもを守り続けるという業務とそのようなことはせずに子どもが殺されてから捜査するという業務とどちらがふさわしいかは国民には明らかです。
 提出資料に記載の通り、警察はストーカー事案については被害者宅の周辺警戒や家庭訪問を行うなど継続的に被害者の保護活動に力を入れています。大人の被害者に対してそうするならば、家庭という密室で逃げることも助けを求めることのできない子どもに対してはなおさらでしょう。ストーカーにより殺害される被害者の数は年間2、3人、虐待による殺害される子どもの数は100人、ということからも明らかです。

 このような取組により警察は国民の信頼をより確保することができるでしょう。ストーカー事案への取組でもそうでした。ストーカー事案が問題となった平成12年当時、不適切な対応を続け、有効な法律案を警察庁で立案し国会に提出することもしないまま、議員立法によりストーカー規制法が制定されました。当時大きく信頼を失墜しましたが、その後真摯に取り組み(もちろん不適切な対応はゼロではありませんが激減しています)、現在は被害者保護活動を含め警察でできることはほとんどやっているといえるところまで取り組んでいます。警察は真面目な組織ですから、法律ができるときちっとやることは間違いありません。それで多くの子どもの命が救われるのです。警察はそのような取組みにより国民の信頼を益々確保できることになるのです。是非、警察庁には、わたくしどもが求めている法改正にご賛同いただきたいと思っています。子どもを守るこのような取組に賛同してくれる現場の警察官は多数いると、都道府県警察勤務の経験から確信しています。

 虐待通告への対応という危機対応の分野において、他機関と連携し業務を分かち合うことにより、児相が今の危機対応に追われ続けることから少しでも解放されて、本来の業務、得意分野に力を入れることができるようにすることこそ必要ではないでしょうか。それが、官のあり方、社会インフラの制度設計としても有効と考えます。本来は根本的な制度設計の見直しが必要だと考えますが、それには時間がかかります。いま子ども虐待死を防ぐために緊急に整備できるシステムは、暫定的なものですが、児相と市町村、警察の虐待情報の共有と連携しての対応であり、わたくしどもの求めている法改正の内容になると確信しております。
 なお、本来は、都道府県では児相から県警に、国では厚労省から警察庁に、現行システムでは到底虐待から子どもを守れないので連携して対応してほしい旨協力を要請し、警察はそれを受ける、ということが望ましいところですが、残念ながら、縦割り意識が強く、官庁間の連携という意識の乏しい日本の官僚組織では起こりえません。それが可能なら私がこんなことを言わなくてもとっくに実現しているはずです。日本の官僚組織の限界であり、官僚OBとしては誠に残念ですが、政治にしかできない、政治主導で法改正するしかないと考えています。
 何卒ご理解賜りますようお願いいたします。