ブログ10 葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件を繰り返さないために(その1)

 本年(2014年)1月30日、東京都葛飾区で坂本愛羅ちゃん(2歳)が父親に腹を踏みつけられるなどの暴行により肋骨が2本も折れ、肝臓損傷で失血死するという事件が発生しました。愛羅ちゃんには40か所も体にあざがあったと報じられています。
 報道によりますと、1月25日夜、マンション近くの住民から「子どもの泣き叫ぶ声がする」と110番があり、駆け付けた署員が坂本容疑者と母親に事情を聴いたが、2人は「夫婦げんかで子どもが泣き出した」と説明。署員は愛羅ちゃんの姿も確認したが洋服を着た状態では目立ったあざは見られなかったため、虐待があるとは判断しなかったという、とされ(2014年1月31日毎日新聞)、その5日後に死に至らしめられたことになります。
 母親は子どもらと祖父母宅で暮らしていましたが、子どもらの世話を祖父母に任せきりでほとんど面倒を見ないと児童相談所が関係機関から相談を受け、2013年3月祖父母宅にいた長男と次男を児童相談所が引き取っていました。7月両親が「自宅で愛羅ちゃんを育てたい」と児童相談所に打診し、8月から愛羅ちゃんが両親宅での外泊を始めましたが、近所の住民が「親子げんかの声がする」と110番、葛飾署員が出勤したがトラブルは確認できなかったとされています(同紙)。

 何とか愛羅ちゃんが殺されないようにする手立てはなかったのでしょうか? 児童相談所と警察が「問題あると家庭だ」と把握していたのです。
 警察は2回110番通報で臨場しています。虐待死させられる5日前には、「子どもの泣き叫ぶ声がする」との110番を受けているのです。2014年1月31日読売新聞によると、「署員は愛羅ちゃんが衣服を着た状態で体の傷を確認したが、あざなどは見つからず、虐待ではないと判断した。しかし、30日未明に亡くなった愛羅ちゃんの遺体には胸や腹のほか額や唇など全身に約30か所のあざや出血があった。」と報じられています。
 本報道が事実だとすると、なぜ顔に虐待の痕が確認できなかったのかという疑問が残りますし、また、その時点で顔にあざを確認できなかったとしても、腕や脚、あるいは腹にあざなどがないかを確認するため、「子どもの体を見せてほしい」と言ったのかという疑問が残ります。
 このような通報を受け、虐待が疑われる家庭に臨場した場合には、親の説明をうのみにするのではなく、虐待の痕がないかどうか、衣服をめくり、少なくとも腕や脚などは確認を試みるようにしておけば、最悪の事態は防げるでしょう。あざが確認された場合はもちろん、確認することを拒否された場合にも、虐待が強く疑われるとして、児童相談所に通告し、児童相談所と連携して、子どもの保護を早急に図ることができるのです。具体的には、できるだけ早く、遅くとも24時間以内に児童相談所と警察が共同して、自宅を訪問し、虐待の疑いの有無を調査し、疑いが払しょくされない場合には、一時保護を含め保護対策を講じるのです。

 また、今回のケースでは、児童相談所が愛羅ちゃんを家に戻す準備期間であったということですから、虐待の疑いがあれば即座に「家に戻せない」と判断し、決定するべきであったでしょう。児童相談所が家に戻す準備中であるのなら、自宅での子どもの安全、虐待されていないかどうかを頻繁に確認しておくべきであることは言うまでもありませんが、児童相談所は確認していたのでしょうか? この点については現時点では不明ですが、児童相談所がほとんど確認していなかったように推測されます。
 30か所(2月1日付時事通信ニュースでは40か所)もあざを作られながら、児童相談所は知らなかった、子どもをそのような家庭に戻すつもりだったということなど許されるのでしょうか。もしかすると愛羅ちゃんを児童相談所が見守りの対象とした時点での理由が虐待でなく、貧困等の理由により養育困難という事由であったのかもしれません。しかし、仮にそういう理由であったとしても、児童相談所が見守りの対象とした乳幼児を家庭に戻すことが適切かどうかという判断に当たっては虐待される恐れがないかどうかということが最重要の確認事項であることは間違いありません。養育困難と言う事情であれば少なくともネグレクトの危険性は高いのですから、いずれにせよ、児童相談所がネグレクトを含めた虐待の恐れがないかを調査しなければならないことは明らかです。

 いずれの場合でも、児童相談所が愛羅ちゃんが虐待を受けていないかの確認を怠っていなければ愛羅ちゃんは死に至らしめられることはなかったはずです。また、臨場した警察官があざの確認ができた場合、あるいは保護者に衣服で隠れている部分も確認させてほしいと要請し、保護者が要請を拒否した場合には、いずれも虐待の疑いが強く疑われますので、警察から児童相談所に直ちに通告され、児童相談所が家に戻すことを不適切と判断していれば、愛羅ちゃんが死に至らしめられることはありませんでした。
 さらに、児童相談所が「愛羅ちゃんは見守り対象で現在再統合に向けた試験外泊中である」という情報を警察に伝えていれば、臨場した警察官はより注意深く虐待の調査をすることが可能でした。

 警視庁と東京都は検証の上、再発防止策を早急に策定してほしい、愛羅ちゃんの尊い死を無駄にしないでほしいと痛切に思います。いったい何人罪のない子どもが殺されたら、改善されるのか。国、自治体、警察、政治の現在の取組みが改まり、子どもが一人も虐待死されない社会とすることが、大人社会の最大の務めです。