ブログ218 愛知県の大村知事と面談し、犬山市奈桜ちゃん虐待死事件の再発防止のため児童相談所と警察とのリアルタイムでの情報共有システムの整備を要望しました

1 昨日の7月29日、愛知県の大村知事に面談し、犬山市奈桜ちゃん虐待死事件の再発防
止のため、児童相談所と警察が、少なくとも、一時保護解除、シングルマザー家庭での交際男・同居男の出現などの危険な案件については両機関が連携して子どもを守るために必要な行動を具体的に定めた協定を締結し、そのような連携を効率的に行うため、両機関でリアルタイムでの情報共有システムを整備していただくよう要望いたしました。

2 犬山市奈桜ちゃん虐待死事件とは、本年5月26日、小学1年の奈桜ちゃんが、シングルマザー家庭に同居する母親の交際男から暴行を受け、内臓損傷による敗血症性ショックで死亡し、同年7月18日、交際男が傷害致死罪で、母親が保護責任者遺棄致死罪で逮捕された事案です。遺体のあごや胸、腹、下半身などに多数の皮下出血などが確認されています(読売新聞2024年7月20日)。本事件は、奈桜ちゃんがこれまで2回も一時保護され、家庭に戻され、母親の交際男による暴力が強く疑われていたという極めて危険な事案で、児童相談所と警察が対応しながら、交際男により虐待死させられたという事案です。

3 報道によりますと(読売新聞2024年7月20日)、女児が2022年12月~23年3月に初めて一時保護された際、腕にあざがあり、「男に会いたくない。パンチされる」と訴えていたが、児相では、母親が男について「子育ての手伝いをしている」と説明、「距離を置くようにする」と話し、児相も母親と交際男の住民票が別々で同居の確認ができなかったことなどから一時保護を解除した、しかし、捜査関係者によると、3人は実質的に同居していたという。県一宮児童相談センターの杉本一正センター長は「別居しているか完璧に把握できず、内縁の夫と女児との接触について十分聞けていなかった」と話す、とされています。また、児童相談所は虐待の可能性を踏まえ、交際男が会わないことを前提に2023年3月に保護を解除、約3週間後に再び一時保護したが児童相談所は交際男には面接しなかったとされ(産経新聞同日)、さらに、男は児童相談所に自ら2度電話しており、電話の内容は関係継続を疑わせるものだったが、児相は男に面接して実態を把握することなく2回目の保護を解除していたとされています(中日新聞2024年7月25日)。奈桜ちゃんが暴力を振るわれたと証言している男との同居の有無を確認しないまま家に戻し、その後も確認しないとは極めてずさんです。
また、奈桜ちゃんが一時保護時に「男からパンチされた」と話していながら、なぜ逮捕されなかったのか。報道によると、検察、警察、児童相談所の司法面接の際に、母親とともに奈桜ちゃんが否定したとされており(2024年7月19日産経新聞)、それで刑事事件にしなかったようですが、なぜこのような対応となったのか検証が必要です。

4 愛知県は、早くから、児童相談所と警察とで全件共有が実施され、本件については警察も上記のように知らされて対応していました。なぜ一時保護の際、逮捕しなかったのか、いかなる事情があったのかは検証に委ねたいと思いますが、本件は、児童相談所と警察が適切に連携して対応していれば、虐待死させられることがなかった事案です。
シングルマザー家庭での交際男・同居男の存在というのは、極めて虐待リスクの高い事案です。奈良県橿原市星華ちゃん虐待死事件、岡山市北区真愛ちゃん虐待死事件、大阪府摂津市桜利斗ちゃん虐待死事件、大阪府箕面市歩夢ちゃん虐待死事件、三重県四日市市アユミちゃん虐待死事件等これまでも同様の虐待死事件が多数起こっています。児童相談所だけで対応できるような案件ではないのです。虐待リスクが極めて高い案件なのですから、児童相談所と警察が奈桜ちゃんを守るためのより実質的な連携をすべきでした。ましてや本件では一時保護解除事案ですから、究極の危険な家庭です。

(1)まず、児相は交際男との同居を確認しなかった、面接すらしなかったというのは、子どもの危険を顧みないずさん極まりない対応ですが、他の自治体の児相でもよくみられる対応です。シングルマザーの同居男、交際男のいる案件というのは児童相談所だけで対応できるものではありません。インターネットで知り合ってすぐ女の家転がりこむという場合もあり、このようなケースでは、児相職員が質問しても無視する、あるいは暴力的な言動も珍しくなく、氏名や本来の住所、勤務先なども児相の調査能力では分かりません。ましてや同居の実態の把握には張り込みが必要なこともあり、到底児相では対応不可能です。子どもに虐待しないようにとの指導などできませんし、虐待の抑止力など全くありません。
こういう男に対しては、警察が所在や身元を調査を含め、警察で対応するしかありません。警察でも張り込み、尾行等が必要となることが少なくないと思いますし、このような家庭には、児相ではなく警察が家庭訪問し、虐待しないよう強く指導しなければ、虐待の抑止力は全く期待できません。こういう事案まで、「児相が適切に対応すべきだった」と児相を批判することは児童相談所の職員に不可能を強いるもので、かつ、結果的にいつまでも子どもの命をみすみす失わせ続けるものです。児相だけで対応させるのではなく、このような事案に対応する能力と体制のある警察が児相と連携して対応する仕組みとするしかないのです。このような事件のたびに、警察との連携には触れることなく、児相の職員の増員、さらなる研修の実施の必要性だけが唱えられていますが、そのような縦割りの対応に終始していては何も解決しないのは、この十年で大児相の職員が大幅に増員されているにもかかわらず、いつまでも同様の虐待死事件が起こり続けていることからも明らかです。またこのような無理な対応を強いることは児相職員を疲弊させるものとなっています。

(2)本事件で、警察がどう対応したのか現時点では不明ですが、警察が同居男にどのように対応したのか検証が必要です。このような場合の児相と警察との連携の在り方として、交際男の存在が判明した時点で、警察が交際男の身元・所在調査をし、警察単独あるいは児童相談所と共同で、頻繁に家庭訪問をして子どもの安全を確認し、母親や男に指導警告をし、継続的に、警察がパトロール、付近の聞き込み等を行い虐待が行われていないか確認し、本件のように一時保護解除の条件が同居しないということであれば、同居していないかどうかの確認も定期的に行い、同居の事実が確認できれば一時保護解除の条件違反として、再々度一時保護する、という方針で対応すべきでした。ましてや本件では、男にパンチされたと訴えていたのですから、かなりの危険性があったと判断されます。このような同居男の危険にさらされている案件では、児相だけで子どもを守ることができるはずもありません。警察が児童相談所と密接に連携して対応すべきでした。

(3)子どもへの危険性が高い案件について、児童相談所だけで対応してはみすみす子どもが虐待死に至らしめられてしまいます。これまで何百件も同様の虐待死事件が起こっています。児相だけでなく警察、市町村の密接な連携が必要です。大阪府警では、一時保護解除家庭等子どもへの危険性が高い事案については、警察単独で家庭訪問し、子どもの安全を確認、保護者への指導を行い、その結果を児相に連絡していますし、岐阜県では、児相、県警、岐阜市が同じ事務所に勤務し、虐待通報の受理から緊急受理会議の開催、家庭訪問、その後の対応まで、児相と警察と市が合同で行っています。

少なくとも、本件のような、一時保護解除事案、同居男の出現等の危険な案件については、児童相談所と警察とで具体的な連携の方策を定め、本来であれば、それを法律(あるいは条令)で定めることが必要です。しかし、それには長い時間がかかることから、早急に、県と県警察本部で協定を締結し、上記の取組が確実になされるよう措置する必要があります。そして、両機関とも限られた態勢で、多数に上る虐待案件についてこのような密接な連携を行うことは電話やファックスのやりとりでは到底不可能であることから、効率的に行えるよう、両機関の業務負担をできる限り軽減できるよう配慮された、全ての虐待案件につきリアルタイムで情報共有できるシステムの整備が必要不可欠です。

5 このような動きは全国的に広まっています。埼玉県が20202年にリアルタイムでの情報共有システムを整備されたのを皮切りに、多くの自治体で整備が進んでいます。

知事記者会見テキスト版 令和2年1月15日 – 埼玉県

昨年3月には、神奈川県の黒岩知事にリアルタイムでの情報共有システムの整備を要望しましたところ(神奈川県は既に全件共有を実施しています)、6月には、補正予算で、全児童相談所と全警察署との間で、リアルタイムでの情報共有システムの整備を行うことを決定していただきました。兵庫県にも要望しておりましたが、下記のとおり、神奈川県と同様のシステムを整備することとされ、同県内の神戸市、明石市の児童相談所に参加するよう働きかけていただいております。

昨年3月には、神奈川県の黒岩知事にリアルタイムでの情報共有システムの整備を要望しましたところ(神奈川県は既に全件共有を実施しています)、6月には、補正予算で、全児童相談所と全警察署との間で、リアルタイムでの情報共有システムの整備を行うことを決定していただきました。兵庫県にも要望しておりましたが、下記のとおり、神奈川県と同様のシステムを整備することとされ、同県内の神戸市、明石市の児童相談所に参加するよう働きかけていただいております。

児童虐待情報、兵庫県が警察と即時全件共有へ 月1回から強化、24年秋のシステム導入目指す|社会|神戸新聞NEXT (kobe-np.co.jp)

01 警察との全件共有のリアルタイム化 (hyogo.lg.jp)

そして、令和5年度の補正予算では、私どもの要望を受け、こども家庭庁が、児童相談所と警察とが全件共有しリアルタイムで情報を共有するシステムの整備について、自治体に補助する制度を創設されました。

令和5年度補正予算案事業概要

少なくとも、一時保護解除事案や同居男の存在が確認された案件その他の類型的に子どもへの危険性が高いと認められる案件については、児童相談所と警察との具体的な連携方策を協定で定めた上、そのような連携を効率的に行うためのリアルタイムでの情報共有システムの整備が是非とも必要です。今回は愛知県への要望ですが、他の自治体にも働きかけてまいる所存です。こども家庭庁、警察庁にも、児童虐待防止法で上記につき規定するよう働きかけてまいります。

このメールは後藤啓二が名刺交換等した方にお送りしています。ご不要の方は下記アドレスまでご連絡ください。