1 大阪府摂津市桜利斗ちゃん虐待死事件の加害者の男が、2021年10月13日、殺人罪で起訴されました。この男は厳しく罰せられなければなりませんが、救えるはずの桜利斗ちゃんの命を救えなかった摂津市と大阪府の児童相談所の対応については正しく検証し、なぜ救えなかったのか、その原因を分析し、その原因に応じた再発防止策を講じる必要があります。
2 その原因は明らかです。かなり危険な虐待が疑われる情報がありながら、摂津市と児童相談所のリスク判断が甘すぎたということにどなたも異論がないことと存じます(職員数が少ないとかそういう理由ではありません)。市町村や児童相談所が甘いリスク判断に基づき虐待死に至らしめた同じような事件はこれまでいやになるほど多数起こっています。
ただし、甘いリスク判断をするのは、市町村や児童相談所だけではありません。警察や学校、病院、母子保健部門などあらゆる機関で起こりうることで、現実に起こっています。一つの機関だけでは、どうしても甘い判断をしてしまうリスクがあります。一つの機関だけでは得られる情報が少ないということもありますし、今回の摂津市のように何十回も母親と面会し対応していたため、かえって大丈夫という判断に陥ってしまうということもあります。
こういう事態を防ぐためには、多くの機関で案件を共有し、一つの機関だけでは甘くなりがちな虐待リスクの判断を甘くならないよう、できるだけ正確に判断できる態勢を整備することが必要です。そのためには、市町村の要保護児童対策地域協議会の実務者会議に警察を参加させ、その場で警察の目から、市町村や児童相談所のリスク判断が甘くないか、チェックできるようにすることが必要です。下記は読売テレビが愛知県・豊橋市の実務者会議を取材した内容です。是非、視聴していただきたいのですが、会議では、参加している警察官が市町村のリスク判断を甘いのではないかと指摘し、その後子どもの安全を優先させ、一時保護に至ったなどと紹介されています。
私が参加した千葉県野田市の実務者会議でも、しばしば警察のみならず、市の教育委員会や母子保健部局の担当者から、市の虐待担当部局や千葉県の児童相談所の甘いリスク判断に異議が出されています。こうした取組が必要なのです。
一つの機関だけではどうしてもリスク判断が甘くなりがちです。それを防ぐためには、市町村の実務者会議に、警察のみならず、市町村の他部門、学校関係者、医療機関、民生委員など子どもを守ることができる多くの関係機関を参加させ、市町村・児童相談所とは異なる観点からリスク判断することで、できる限り正確にリスク判断できる態勢を整備することが是非とも必要です。
3 今回の事件を防げなかった摂津市及び大阪府下の市町村はもちろん、全国の市町村でこのような態勢を整備しなければなりません。厚労省には、「市町村子ども家庭支援指針(ガイドライン)」(平成30年7月20日)の「必要に応じて」警察を実務者会議に参加させるという規定を、警察を基本的な構成員とするよう改正するよう、何度も要望書を提出するなどしておりますが、改めて強く求めます。ガイドライン作成の際、厚労省の原案は、警察を「可能な限り」構成員とするというものでしたが、児童虐待の「専門家」と言われる学者や医師の意見で「必要に応じて」という規定に変更してしまった経緯があります。元々は厚労省も警察を参加させることに反対ではなかったのですから、速やかに警察を基本的な構成員とするよう規定を改め、全国の自治体に指導することを改めて強くお願いいたします。