1 2021年9月28日に大阪府摂津市桜利斗ちゃん虐待死事件を受け、摂津市長、大阪府知事、厚労大臣あてに再発防止を求める要望書を提出し、ZOOMで記者会見しました。ご覧ください。
2 要望内容は、大きくは次の三点です。
① すべての市町村の要対協の実務者会議へ警察への参加とその場での全件共有
② 児童相談所、市町村から警察への情報提供を「外傷のある事案」に限定することなく、全件提供することとする
③ 国、自治体が設置する虐待死事件の検証をする委員会は、児童相談所OB、児童福祉の大学教授、虐待の「専門家」と言われる医師たちより、独立した立場から幅広い視野から判断できる有識者・一般市民の方や他分野の研究者等を多数とする構成とする
(1) まず、①、②についてです。摂津市が実務者会議に警察を参加させていれば、こんなことにはまずなりませんでした。本件では、摂津市が外傷がないことなどから緊急性はないと判断しましたが、信じられないほど甘いリスク判断です。「殺されるかもしれない」という通報やシングルマザー家庭への同居男の出現という虐待の危険な兆候が複数あったのですから、警察と案件を共有していれば、警察であればかなりの危機意識を持ったことは確実で(一般市民の方もそうだと思いますが)、警察が適切な頻度で家庭訪問を行い、男に注意・警告していれば、男も警察に知られているということから、虐待は思いとどまったことと思います。摂津市は男に注意したと言いますが、抑止力にはなっていません。警察の家庭訪問はかなりの虐待の抑止力となるのです。
摂津市が実務者会議に警察を参加させなかったこと、及び外傷がないことから緊急性がないと甘い判断をし、警察に知らせなかったことについては、厚労省の作成した「市町村子ども家庭支援指針(ガイドライン)」(平成30年7月20日)、国の「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(2018年7月)に原因があります。
上記ガイドラインで、実務者会議には「必要に応じて」警察を参加させればいいと規定されていることが、多くの自治体が警察を参加させない理由です(岡山市などにはそういわれました)。また、上記緊急総合対策では、児童相談所は「虐待による外傷」のある事案等に限定して警察に提供すれば足りるとされています。これらを根拠に、摂津市は実務者会議に警察を参加させず、外傷がない事案は緊急性がないと判断してしまったのだと思います。
おそらく、こういう自治体は全国に数多くあると思われ、同様の事件がどこで起こっても不思議はありません。一つの機関だけで対応できるほど児童虐待は甘い問題ではありません。摂津市や大阪府は当然として、厚労省には、自治体がこのような誤った認識で虐待死に至らしめる原因となっている上記ガイドラインと緊急総合対策を早急に改め、警察を実務者会議に参加させるとともに、外傷のある事案に限定せずすべての案件を警察と共有し、子どもを守るためにベストの態勢を整備することを強く求めます。
(2)次に③についてです。③は、国や自治体が設置する虐待死を検証する委員会の委員構成は、児童福祉・児童虐待の「専門家」ではなく、それ以外の方を多数とすることを求めるものですが、その理由は次のとおりです。
上記ガイドラインで警察の参加を限定するように主張したのは、児童福祉・児童虐待の「専門家」の加藤曜子流通科学大学人間社会学部教授(当時)と奥山眞規子医師です。厚労省は当初「可能な限り」警察を参加させようという案でした(下記議事録p26~p28)。
また、上記緊急総合対策の策定前、この時期は、東京都目黒区結愛ちゃん虐待死事件の直後で、私どもは全件共有を求めて政府に強く働きかけ、世論も適切な対策を求めていましたが、まさにこの時期に「日本子ども虐待防止学会」という児童虐待の「専門家」の団体(会長奥山眞規子医師、事務局長山田不二子医師)が、全件共有に反対する要望書を厚労大臣に提出し、結果として厚労省は外傷のある事案等に限定してしまいました。
児童福祉・児童虐待の「専門家」たちが、このような反対をされず、警察を関与させないという方針でなく、私どもと一緒の方向で、「Working Together―関係機関が連携して頑張ろう」というイギリスの理念のように、すべての自治体の実務者会議に警察が参加し、児童相談所・市町村と警察とが全件共有し、連携しての活動によりベストの態勢で子どもを守る活動を作り上げていれば、本件の桜利斗ちゃんを含め、どれだけ多くの子どもたちの命が救われたかと思うと残念でなりません。
また、これまでの多くの虐待死事件を検証する委員会のメンバーは、児童相談所OBや実務等を通じて密接な関係にある児童福祉・児童虐待を専門とする大学教員や医師たちにより構成され、独立性があるとは言いがたい、いわば「内輪」のメンバーで構成されています。そこで出される検証報告書では、警察と情報共有していれば、連携すれば救うことができたとは指摘されることはまずありません。彼らは警察との情報共有・連携を否定する立場ですので、そんなことは指摘できないのです、結局出される提言は、児童相談所の増員など児童相談所の望むものに限られ、彼ら及び児童相談所の嫌う警察との連携はまず触れられることはありません。そのような提言を行政が真に受けていることが(といますか、最初からそんな提言を出してくれることを前提に委員を選任しているわけですが)、いつまで同じような事件が繰り返される理由です。例外は、平成20年に出された高知県での虐待死事件の下記の検証報告書です。
そこでは警察の児童虐待防止の役割が評価され(p26、p41)、それを行政が真摯に受け止め、直ちに同年から高知県で全国で初めての児童相談所と警察との全件共有につながっています。これがあるべき、検証委員会の姿であり、それを受け止める行政の姿です。このような高知県の対応は、厚労省や児童福祉・児童虐待の「専門家」の方には受け入れられないものなのでしょうが、どちらが子どもを守ることになるのかは明らかです。
知事や市長さんには、検証委員会のメンバーとして児童相談所の役人が用意した「専門家」を多く選定してしまえば、警察との連携の必要性を打ち出さない結論になることは明らかであり、それは再発防止にはならないということにぜひご理解いただきたいと思います。それが上記③を要望する理由です。
3 上記の「専門家」の方の主張により、児童相談所・市町村と警察との全件共有と連携しての活動が妨げられている問題については、中央公論10月号掲載の拙稿「児童虐待問題とコロナ対応に見る厚労省の失敗」で詳しく述べていますので、ご一読いただければ幸いです。そこでは、新型コロナ対応における感染症の「専門家」と言われる医師たちのPCR検査抑制問題についても触れております。「専門家」の意見が果たして正しいのか、ということにつき、我々は深く考えなければならないと痛感しています。児童虐待の「専門家」と感染症の「専門家」はそのことを露わにしてくれているのです。