いつも「子ども虐待死ゼロを目指す法改正」の実現に向けた活動にご理解賜り誠にありがとうございます。
1 本年8月29日の読売新聞に、所在不明児童として母親に各地を転々と連れ回され、学校も通えず、野宿なども強いられていた少年が、母親から祖父母を殺してでも金を借りてこいと言われ、祖父母を殺してしまったという事件について(懲役15年確定)、少年が野宿している際に度々警察官に職務質問されていたこと、児童相談所が一時保護を提案しながら母親に拒否され、一時保護をしなかったことなどが報じられています。
本来被害者であるこの少年が、殺人を犯してしまい、懲役15年の判決を受けることになった本事件は、母親に第一義的な責任があることは明らかですが、自治体・学校・児童相談所・警察等の関係機関が所在不明児童(あるいは被虐待児)について情報共有もせず、ほったらかしにしていることに極めて大きな責任があります。いわば、警察も含めた行政の不作為責任と、このような事態を防止するための有効な法制度を整備しない、厚労省・警察庁及び立法府の責任が問われなければなりません。
2 私どもは、ご案内のとおり、被虐待児・所在不明児童に関して関係機関の情報共有と連携しての対応を義務付ける法改正を求めておりますが、厚労省・警察庁に拒否されております。
私どもの求めるように、被虐待児・所在不明児童に関する情報共有を自治体・警察・児相に法律で義務付けた上、所在不明児童の調査・保護の積極化を実現していれば、この少年は保護され、このような悲惨な事件は起こらなかったはずです。具体的には現場で活動する警察官が、警察活動中に出会う子どもが所在不明児童あるいは被虐待児であることを把握できる仕組みをつくることが大変効果的で、必要不可欠と思料致します。
少年は外で生活しているときに、警察官に何度も職務質問されたといいます。多分、公園で野宿しているときではないかと思うのですが、そのような家族がいれば警察官は当然職務質問します。本件では、ここからどうなったかが不明なのですが、もし、自治体・児相・警察の間で、所在不明児童や被虐待児に関する情報が共有されていれば、警察官が職務質問した際に、警察官は本部通信指令室に照会しますから、照会された本部から当該児童は所在不明児童(ないしは被虐待児)である旨が警察官に伝えられ、保護するよう指示されたと思います。ところが、現在は、所在不明児童や被虐待児について、警察と児相・市町村の間で情報共有されていないので、現場で活動する警察官がせっかく保護できる機会をみすみす逃しているのが実情です。
3 同様のことはいろんな場面で起こっています。本件のような家庭、あるいは深夜はいかい、家出をする子どもは、現場の警察官が把握する機会が多くあります。それが現在は、児相も市町村も警察に情報提供しないので、現場の警察官がそこにひそむ問題の深刻さを把握できず、折角の保護の機会を失してしまっているのです。
虐待が原因で深夜はいかいや家出をする子どもは数多いですが、警察は保護してもそのまま家に戻すだけです。児相から情報提供があれば、保護した際に児相に連絡し、連携して家庭訪問し、保護者を指導できるはずですが、そのまま家に戻すだけですので、深夜はいかいや家出の防止に全くつながりません。
虐待案件では、葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件がそうでしたが、児相が把握している家庭に110番が入っても、児相が警察に情報提供しないため、現場に赴いた警察官が親に騙され、虐待を見逃してしまうというリスクが常時生じています。愛羅ちゃんは110番の5日後に父親から殺されましたが、遺体には40ケ所ものあざがありました。
昨年の川崎市の上村くん殺害事件でも殺害される1週間前に110番で警察官は上村くんと加害少年と接触していますが、学校から情報提供がないため、通常のトラブルとして「もうけんかするなよ」と説諭するだけで終わってしまっています。深刻な案件だと分かれば、加害少年の補導・警告、上村君の保護などいろいろとできたでしょうから、上村君が殺害されることは防げたと思います。
本件でも、所在不明あるいは虐待案件として、警察と情報共有されていれば、職質した警察官が、本部通信指令室に照会して、所在不明児童だと分かり、保護できたと思います(本件のように、児相が一時保護しないおそれは強いですが、現場では警察から強く求めれば、一時保護することが多いです)。
また、このような家庭(子ども)は、全国を流浪することも珍しくありませんので、全国データベースの整備が必要なのですが、児相や市町村にまかせていては永遠にできません。全国ネットワークが整備されている警察では、情報さえ共有できれば直ちにできるのです。
4 24時間365日、深夜でも、現場で多くの警察官が活動しています。現場の警察官が被虐待児や所在不明児童やその家族と接する機会は大変多いのです。しかし、情報共有がなされないので、折角保護できる機会を見過ごし、救えたはずの多くの子どもの命が救えないままなのです。
なぜ有効な社会資源である警察を子どもを守るために使わないのか、そのために必要不可欠な情報共有をするようもう2年も訴えておりますが、厚労省・警察庁とも聞く耳を持ちません。救いは、今年5月の参議院厚労委員会が付帯決議で「もれなく確実に情報共有するよう検討しろ」と政府にいってくれたことです。今後は政治に働きかけ、情報共有を実現していく所存です。