今年に入り、埼玉県狭山市羽月ちゃん事件、東京都大田区礼人ちゃん事件と、異常なほど残虐な虐待死事件が続きます。
1 私は、羽月ちゃん事件発生直後に埼玉県警察本部に、今週の水曜日に埼玉県庁に出向き、それぞれ幹部の方に、再発防止のため、児相と市町村、警察との情報共有と連携しての対応をお願いしてきました。いずれの幹部の方も前向きで、大変期待しています。
羽月ちゃん事件は、狭山市と警察が虐待の兆候を把握していましたが、児相に通告せず、情報共有もせず、ほったらかしにしてしまいました。そのため、狭山市も警察も、これからは、より積極的に児相に通告することになると思います。組織のリスク対策としても必要ですから、間違いなくそうすると思います。しかし、それでは、既にパンクしている児相がさらにパンクの度を深めるだけで、これまで児相が対応できていたわずかの案件も対応できなくなる恐れすらあります。羽月ちゃん事件が明らかにした現状はつぎのとおりです。
(1)情報の共有がないため、どの組織も虐待リスクを正確に認識・評価できていない
―特に、警察に対して児相から情報提供がなされないため、虐待家庭につき110番が入っても、警察官は虐待家庭だという情報がないため、虐待を見逃してしまい、その直後に虐待死させられるケースも発生している。仮に、本件で児相に市から通告された後に110番が入ったとしても、児相から警察に情報提供がなされない現状では警察官は虐待リスクを把握できず、適切な対応ができない。
(2)情報共有がなされても、児相の現在の体制では、ほとんど家庭訪問すらできず、ほったらかしとなり、虐待死、虐待のエスカレートを防ぐことができない
そこで、
(1) 虐待リスクを正確に認識・評価し、保護等適切な対応をとるための児相、市町村、警察との間の情報共有
(2) 情報共有した上で、児相・市町村・警察が人員を出し合って家庭訪問の頻度を上げ子どもの安否確認と親への指導支援を行う
ことが必要なのです。
単に、児相への通告を増やすだけでは意味がない、場合によってはさらに対応が悪化することになりますし、児相から警察への情報提供がなされるだけでも不十分です。児相と市町村と警察が人員を出し合って連携して、家庭訪問の頻度を上げ、できる限り子どもの安否確認と親への指導支援を行わなければ全く効果はないのです。逆に言うと、関係機関の情報共有と連携しての活動が実現し、それが有効に機能すれば、羽月ちゃん事件の再発防止ははかられるのです。
最近の著名な虐待死事件について、情報共有がなされない現状と、情報共有と連携しての活動がなされた場合を比較すると次のとおりとなります。
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2 一方、礼人ちゃん事件のようなケースについては、再発防止策を講じることは容易ではありません。詳しい事情や経緯は不明ですので、次のようなケースを想定し、再発防止策を検討します。
想定するケース:両親が離婚し、子どもを母親が引き取る。養育費の支払いなし。母親が新たな男と同居。同居男が母親と子どもに暴力を振るう。
まずは、シングルマザー家庭に新たに男が同居するようになったことについて、そのような情報が入手できれば、それを関係機関で情報共有することが必要です。羽月ちゃん事件、礼人ちゃん事件のほか、横浜市あいりちゃん事件などシングルマザーが男と同居するようになってから子どもを凄惨な虐待死に至らしめたという事例は少なくありません。たとえば警察に虐待ではないかとの通報があった場合に、あらかじめ最近新たに男と同居するようになった家庭だという情報があれば、より詳しく虐待の有無を調べることができます。
次に、養育費の不払いの解消が必要です。養育費の不払いは8割に上り、そのためシングルマザーが貧困に陥り、(場合によっては男に頼り同居するなどしてさらに)子どもを虐待するに至る危険は大きいものがあります。そこで、欧米各国で行われている養育費の源泉徴収制度や政府機関が養育費の不払い者から取り立てる制度など養育費の支払いを確保するための法制度の整備が必要です。
さらに、礼人ちゃん事件、羽月ちゃん事件双方ともそうですが、同居男が子どもに暴力を振るうリスクには大変大きいものがあり、DVを振るうこともざらであることから、幼い子どもを育てる母親がSNSや出会い系サイトで知り合った男と安易に同居する行為には、子どもが重大な虐待にさらされるというリスクがかなりあるということを認識し行動するようになることが必要です。
これについては、子ども時代からの地道な教育を進めていくことが重要だと思います。学校現場で、あるいは家庭で、男子生徒に対してはDV・虐待が犯罪行為であり、絶対に許されないものであること、女子生徒に対しては、SNSや出会い系サイトで知り合った男と安易に同居することには大変な危険があること、DVを受けた場合には別れる、逃げる、あるいは警察等に訴えることが必要であること、幼い子どもを抱え、新たな男と同居する場合には子どもが虐待を受けるリスクが高いこと、男が子どもに虐待を加え始めたら、別れる、逃げる、警察等に訴えることにより子どもを守らなければならないことなどを教える教育・研修を大々的に展開することが必要だと思います。このような教育は学校でも家庭でもほとんど行われていないと思いますが、実施していかなければ、母親にも守られず、残虐に殺される子どもはいつまでも減ることはありません。DV被害者が相談しやすい態勢を整備することも必要です。
幼い子どもが家庭内で残虐に殺されることのないように、私どもが求める法改正を含め必要な法制度の整備はもちろんのこと、必要な教育、態勢の整備その他できることは残らず進めていかなければならないと考えます。