1 2014年7月29日の朝日新聞に「所在不明の子1588人 30都道府県で」という記事が一面に掲載され、自治体の感じる調査の課題や問題点として、
◆秋田県 虐待の疑いがあるかはっきりしなくても立ち入り調査によって目視で確認できる法的根拠を整備すべきだ
◆千葉市 乳幼児健診には受診義務がなく、本人の同意なしでどこまで調査するか、調査に協力を強いるのかの判断が非常に困難
◆松山市 個人情報の壁が高く、部署間や他自治体との連携に苦慮
などと報じられています。
また、同月26日の産経新聞には、「虐待が疑われる子供の所在不明問題などへの対応を強化するため、警視庁は25日、人身安全総合対策本部を発足させた。・・児童相談所と連携してきた少年育成課などを新たに加え、2カ月をめどに80人から120人に体制を拡充する。ストーカー・DVだけでなく、児童や高齢者、障害者への虐待が疑われる事案や事件性が疑われる行方不明事案があった場合にも、警察署への相談や110番通報の段階で対策本部が関与。署と連携して危険性を判断し、積極的な事件化や保護に乗り出す。」と報じられています。
2 所在不明児童についての自治体の調査が進み、警察もそれなりに対応をとりはじめたことは、評価できます。ただ、何度も申し上げているとおり、今回の調査で終わりではなく、始まりですし、警察の対応もここで報じられているものだけでは十分ではありません(上記産経新聞の記事では、「事件性が疑われる行方不明事案」について対応するようにも見受けられますが、所在不明児童の多くのケースは事件性がありませんので、もしこのような場合のみ対応するという方針であるとすれば対応するケースがごくわずかになってしまいます。この点につき、警視庁の方にはご教示いただければ幸いです)。
市町村、児童相談所、警察という異なる機関が、恒常的に、所在不明児童に関する情報を共有して、相協力してその所在を調査し、発見し、保護するという仕組みの整備が必要不可欠で、そのためには、何度も申し上げているとおり、「所在不明児童の発見・保護に関する法律」(仮称)の制定が是非とも必要です。
そして、所在不明児童問題は子ども虐待問題の一環であり、そのための対策は、被虐待児一般の保護と併せて取られることが必要です。虐待されている子どもを守るために必要な法律上の権限や仕組みがないことから、所在不明児童の調査・保護もうまくすすまないのです。上記の朝日新聞に報じられた各市の意見もそれを如実に示すものとなっています。
私がこれまでのブログで述べた法整備の案は、児童虐待防止法を改正するとともに、「所在不明児童の発見・保護に関する法律」(仮称)を制定するというものですが、所在不明児童問題や乳幼児健診未受診の問題、さらには、望まぬ妊娠、妊婦健診未受診等の問題を子ども虐待問題全般の中に位置づけ、総合的な子ども虐待防止の取組みを進めることで、所在不明児童問題や健診未受診問題、ゼロ歳児の虐待死問題の解決も目指そうとするものです。その最大の目的は、言うまでもありませんが、子ども虐待死ゼロを目指すというところにあります。これまでのブログで述べたことをまとめると次のとおりです。
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3 所在不明児童問題については、自治体から国に対して法整備を求める声が上がり始めています。
横浜市は、居所不明児童対策の強化として、1 情報仲介機関の設置による全国的な仕組みの創設、2 「情報共有のルール化」に向けた支援などを法務省、文部科学省、厚生労働省に提案していますし、全国市長会関東支部も同趣旨の「居所不明児童の全国レベルでの情報一元化と自治体への情報提供機関の設置に関する緊急要望」を提出しています。これらの案は、所在不明児童について全国的なデータベースを作って、調査していこうというものです。大変意義あるものだと思います。
これは、上記の私の案の1(4)の「虐待家庭の全国データベースの整備」の所在不明児童版だと思いますが、このような仕組みは、被虐待児全般について整備する必要があることは言うまでもありません。前にも書きましたが、現在、転居等で所在不明となった虐待家庭については、児童相談所がファックスで他の児童相談所に通報するといった冗談と思えるくらいのことしかしておりません。そこで、いわゆる所在不明児童も含めて転居等で所在不明となった虐待家庭の情報について全国的なデータベースを作ることが是非とも必要です。
4 子ども虐待問題全般について最大の問題は、児童相談所、市町村、警察が全くといっていいほど連携していないことであり、児童相談所が案件を抱え込み、子どもが危険な状態にある家庭を頻繁に訪問しての安否確認と親への指導・支援が極めて低調な―家庭訪問の間隔が長期間空いてしまうケースや全く家庭訪問しないケースまであり、親への指導・支援も市町村やDVセンター、警察と連携しないことからほとんど効果がないーことです。警察が児童相談所に虐待通告するのみでそれ以上関与しようとしないことがその裏の事情としてあります。
家庭という密室でいつ殺されるかもしれない子どもを守るためには、できるだけ頻繁に家庭を訪問して、子どもの安否を確認し、親への指導・支援を行い、それでも虐待が続くようであれば一時保護するしかないのです(児童相談所の一時保護の適正化も大きな課題ですが)。頻繁な家庭訪問のためにはできるだけ多くの人手が必要で、児童相談所と市町村と警察が人手を出し合うしかないのですが、それを義務付ける法律を整備しなければこれらの組織は人手を出そうとしないのです。この十数年、児童相談所が案件を抱え込み、安否確認を行わないまま、あるいは行っても必要な一時保護をせず又は安易に一時保護を解除して、子どもが殺され続けていますが、これがいつまでも続くだけなのです。
そして、上記朝日新聞に「◆松山市 個人情報の壁が高く、部署間や他自治体との連携に苦慮」とあるとおり、市町村、児童相談所、警察のいずれの組織とも、「個人情報保護」(あるいは守秘義務)を錦の御旗として、むしろ情報提供しないことを正当化しています(真実はもちろん単なる保身ですが)。ましてや、さらに進んで他組織と協力して人を出し合って子どもを守ろうという気はさらさらないというのが、悲しいかな現実なのです。
5 こうした現実からすると、悲惨な虐待死が起こるたびに学者や弁護士等で構成される第三者委員会の報告書で「関係機関が連携を」と抽象的なことをお題目のように唱えるだけでは何も変わらないことは明らかです。このようなことは十数年お題目として唱え続けられてきました。必要な情報提供、人手を出し合っての頻繁な家庭訪問、安否確認などについて具体的に法律で義務付けなければ、これらの組織は何も変わりません。
お題目を唱え続けることはやめて、実効ある法律の整備を政治に求める(役所は自らは何もしませんから、政治に求めるしかありません)、そういう行動が是非とも必要なのです。
上記に掲げた法改正の案は、児童相談所と市町村と警察に子どもの命を守ることに真面目に取り組むことを求めるものであり、「これくらい言われなくてもやれよ」という程度のもので、国民に負担をかけるものでもなければ、専門家による議論の必要のあるものでもなく、反対するかもしれない関係者は誰もいません。市町村からも法整備を求める声が上がっています。医師の方のご協力は得る必要がありますが、心ある多くの医師の方は既に行っている取組であり、反対されることは決してありません。どうかご理解ご支援賜りますようお願い申し上げます。