ブログ21 妊娠中・出産直後から子育て支援が必要な妊産婦を支援する

1 平成23年度に虐待死させられた58人(心中以外)を年齢別にみると、最多は0歳児で25人となっています。虐待死事例(心中以外)の妊娠期・周産期の問題は、妊婦健診未受診者が36.2%、望まない妊娠が31.0%、若年(10代)妊娠が24.1%と、これらの割合が非常に高くなっています。
 妊婦健診未受診、望まない妊娠、若年妊娠等の事由は、出産後、虐待してしまうリスク、最悪虐待死させてしまうリスクとなっています。そこで、妊娠中・出産直後から、妊婦健診未受診、望まない妊娠、若年妊娠等の事由がある妊産婦を市町村、児童相談所が把握して、子育て支援していく、希望者には養子あっせんするということができれば、虐待あるいは虐待死させてしまうリスクをかなり少なくなくすることができるのです。
 このような事由を把握できるのは、医師、特に、産科の医師であるわけですので、医師、特に産科の医師の方が、妊婦健診未受診者、望まない妊娠、若年妊娠等の事由がある妊産婦を把握した場合には、市町村又は保健所に通報し、市町村又は保健所が、出産後、必要な子育て支援を行うことにより、特に出産直後ないしは0歳児の段階で虐待死させてしまうリスクを少なくすることが期待できます。
 また、母親が養子縁組を希望する場合には、市町村・保健所が児童相談所に連絡し、それを受け児童相談所が養子縁組あっせんを行うことにより、子どもが養親により幸せに育てられることが期待されます。

2 次に、子どもに乳幼児健診を受けさせないということは、虐待のハイリスク要因となっています。平成23年度の虐待死事例(心中以外)では、3~4ケ月児健診で25%、1歳6ケ月児健診で33.3%、3歳児健診で42.9%の子どもが、それぞれ未受診であると確認されています。
 そこで、乳幼児検診を受けさせない親に対しては受診を勧奨し、それにもかかわらず受診させない親は、児童相談所に通告し、すでに何度も述べているような方法、すなわち、児童相談所と市町村と警察が人手を出し合って、できるだけ頻度を上げて子どもの安否確認、親への指導・支援を行うようにすること、が必要不可欠です。私の知る限り、今はほったらかしの市町村が多いと思います。理玖ちゃんも乳幼児健診未受診でしたが厚木市は何もしていませんでした。今でも大して変わっていないのではないでしょうか。

3 以上のことから、次のような規定を児童虐待防止法に規定することが必要と考えます。

(1) 医師は、望まない妊娠、妊婦健診未受診等子育て困難と思われる妊産婦を認知した場合には市町村・保健所又は児童相談所に連絡するよう努めるものとする。

(2) 市町村は、乳幼児健康診査未受診の子どもの親に対して受診を勧奨することとし、それにもかかわらず受診させない場合には児童相談所にその旨を通告するものとする。

(3) 市町村・保健所は、第1項及び第2項の妊産婦、親その他子育て支援が必要と認められる者に対して必要な子育て支援を行うものとし、児童相談所は要請に応じて養子縁組あっせんを含め必要な援助を行うものとする。

4 妊娠中・出産直後からの子育て支援については、岡山県産婦人科医会では、2011年11月から、「妊娠中からの気になる母子支援連絡票」を県内の産科施設に配布し、医師らが「望まない妊娠」「胎児への愛着が薄い」など17項目をチェックし、一つでも該当する妊婦がいれば医会へ連絡票を送る、医会はDV被害など緊急性が高いと判断した場合には本人の同意がなくても市町村に情報を送り、保健師の自宅訪問など早期支援につなげる、という取組を行っています()2013年10月22日読売新聞)。
 既に、一部の心ある医師の方により実施されている取組ですが、個人情報保護に懸念を感じる医師の方が少なくない現状から、法律で通報義務(努力義務)を規定することにより、かかる懸念がなくなり、積極的に通報されることが期待できます。

5 養子縁組あっせんについては、児童相談所の業務とされていますが地域により著しい差異があり、養子縁組あっせんに消極的な児童相談所も少なくありません。これには虐待対応に追われ余裕がないという事情もあります。
 このほか、全国にある20の産婦人科の医療機関が「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」を発足させ、望まない妊娠をした女性などからメールと電話で相談を受け、協議会のうち最も近い医療機関を紹介し、子育て望む夫婦にあっせんする取組を行っています。
 しかし、養子縁組の成立はまだまだ少ないのが現状です。特に児童相談所の養子縁組あっせんはもっと積極的に進められるべきであり、児童相談所が妊娠中・出産直後から子育て困難な母親を把握できることにより、これまで以上に養子縁組あっせんの業務に取り組むことができることが期待できます。

 私が以前のブログで提案している子どもの安否確認、親への指導・支援などについて、児童相談所が抱え込むことなく、市町村と警察と連携して行う仕組みが整備されれば、これまでの児童相談所の業務がある程度軽減されることが期待でき、養子縁組あっせん業務にこれまで以上に取り組むことができるようになります。そうすると、0歳児を虐待死させてしまうおそれのあるハイリスクの母親が減ることとなり、虐待死させられる子どもが減り、幸せに育てられる子どもが増えることが期待できます。
 虐待対応の場における児童相談所・市町村・警察の連携確保制度と医師からの子育て困難と思われる妊産婦の通報・それを受けての親への支援・養子縁組あっせんを促進する制度は、セットとして取り組むことにより、虐待死させられる子どもを大きく減らすという効果を期待できると考えています。

 元児童相談所所長の方は次のように述べておられます。

 「10年前児童相談所の時間は、今よりもっとゆっくり流れていました。多くは利用者からの相談により始まり援助をスタートするといた信頼関係に基づく関係が保たれていました。ゆっくりと評価をし、必要なケアを組み立てていく時間的余裕がそこにはありました。・・・しかし、今の児童相談所は虐待通告を受け調査を開始し、保護者との対立関係からスタートするケースが激増しています。行政機関としての積極的な介入が責務となりました。・・・そして国は、適時適切な権限の行使とともに、保護者への援助の同時進行も児童相談所へ課してきました。まさに介入と援助、この相反する2つの役割が児童相談所に課せられたのです。」(御代田久美子「虐待相談に特化した児童相談所の今」(子育て支援と心理臨床2013年7月号))

 児童相談所が虐待を把握しながら安否確認をしない、虐待通告を受けても所在が分からないとほったらかしにする、親から調査拒否されてもほったらかしにするなど情報を他機関に提供せず案件を抱え込み、かといって自分では何もせず多くの子どもを虐待死に至らしめる、24時間対応せず夜間は警察に丸投げ、職員も少なく調査権限もない、虐待家庭が転居しても把握できるような全国的なシステムも整備せず長年ほったらかしにしている、危険な親の言いなりになり子どもを保護しない、あるいは保護しても安易に危険な親元に戻してしまうなど、児童相談所は虐待対応について多くの致命的な問題を抱え、一向に改善する気配もなく、国も何か改善しようという動きはありません。
 これは、そもそも、児童相談所が戦後設立後は戦災孤児を保護することを主たる任務とし、その後も、親から相談を受けて信頼関係を保ちつつ子どもをケアしていくということが主たる任務であったにもかかわらず、虐待通告への対応という、24時間対応できる機動力と豊富な人員、情報収集能力あるいは調査権限、さらには暴力的な親にも毅然として対峙する能力、子どもの安全確保のための計画の作成とそれを遂行する能力及びこれらを日々訓練する職員・組織が必要な業務について、決定的に適性がないにもかかわらず、虐待が激増し深刻化した平成以降も児童相談所に担わせ続け、上記の元児童相談所長さんの言われる「介入と援助」という相反する二つの業務を課していることから生じている問題です。
 本来は根本的な組織の見直しが必要な問題ですが、それには長い年月を要し、それをいま議論する余裕はありません。いま必要なのは直ちに、一人でも多くの子どもを虐待死から防ぐ対策です。
 そのためには、これまで縷々述べてきましたような、児童相談所が、虐待案件を抱え込まず他機関に情報提供し他機関もそれに応じて人員を出し合って、子どもの安全を確保していくとともに、(連携することにより少しでも児童相談所の虐待対応業務の負担を減らし)子どものケアと親への指導、養子縁組あっせんなど、児童相談所の本来の適性に合致した業務を今まで以上に行うことが必要であると考えます。以上のような施策(法改正)のセットにより、全体として、子どもの虐待死の多くを防ぐことができるものと考えます。