2・子どもに冷たい法制度・風潮をかえる

投稿日:2013年1月15日|カテゴリ:有効な対策を講じない政治・行政への怒りのブログ

これまで長い間、警察や児童相談所、裁判所などの公的機関は、「法は家庭に入らず」、「民事不介入」、「親との関係を重視する」という名のもとに、虐待される子どもを見殺しにするような対応が顕著でした。

平成12年の児童虐待防止法の制定により、徐々にではありますが公的機関の対応は改められつつあります。しかしながら、すでに述べたように、虐待されている子どもの安全を確認するための住居に対する警察官の立入り権の創設や性的虐待である児童ポルノから子どもを守るための規制について民主党や弁護士の一部が反対するなど子どもを救うための法制度の整備は遅々として進んでいません。マスコミも子どもを守ることにあまり熱心ではありません。朝日新聞は、東京都のおぞましい児童ポルノの漫画を子どもに販売することを禁止する条例案に反対しましたし(平成21年12月23日社説)、毎日新聞は児童虐待防止法を改正して虐待が疑われる家庭への警察官の立入り権を創設することについて反対しました(平成16年2月20日社説)。

実は、日本は子ども虐待に限らず、「弱者に冷たく強者におもねる」、あるいは、「被害者より加害者を大事にする」法制度がいまだ多く残り、政府や国会、学者やマスコミの多くがそれを是としているような国なのです。

母子家庭での虐待のリスク要因として貧困がありますが、いわゆるシングルマザーの貧困の大きな原因は元夫から養育費が支払われていないことです。日本では協議離婚が9割を占めていることから、離婚に際して養育費の取り決めをしない、取り決めをしても公正証書で作成されていないことが多く、請求することすら困難なことが多く、また、裁判・調停等で離婚した場合でさえ、支払わない場合に強制的に取り立てる民事執行法の手続きが煩瑣かつ役に立たず、ほとんど活用できない法制度となっています。欧米諸国では、養育費の不払いには刑罰をもって担保したり、源泉徴収のような仕組みで徴収するなど元妻が不払いにより貧困で苦しむことのないよう制度が整備されています。しかし、日本ではそのような配慮は皆無で、離婚して一人で子どもを育てる母親の多くが貧困に陥り、虐待に至る大きな原因を放置したままとなっています。

この問題に関連して、水野紀子「児童虐待、配偶者間暴力、離婚」(町野編「予防と対応」所収)では、次のように述べられています。

「欧米諸国では、子の奪い合いのみならず、扶養料請求等についても、伝統的に刑事罰が活用されてきた。つまり家庭内における弱者保護のために必要とあれば刑事罰の脅しをもって国家が積極的に介入することは、憲法の人権擁護の要請に合致するものと理解される。これに対して、日本においては、戦前の状態への警戒心から、憲法は主に国家権力からの自由の保障として機能し、家族内への国家介入については、それを否定する論拠とさえされる。児童虐待に関しても、欧米諸国では、国家が有効な救済を行わないことは、人権を守る任務を負う国家の憲法違反として、その責任が問われる。日本においては、児童相談所は、通報される虐待ケースに対応しきれない状態であり、多くの子どもたちは虐待される家庭の中に放置されているが、そのことの国家責任は問われない。」

児童ポルノについても同様です。日本において、児童ポルノを楽しむ大人の自由を認め、児童ポルノの被写体とされた子どもを苦しみの中に放置しても、国家は責任を問われません。それどころか、日本の国民は児童ポルノの単純所持規制に反対している民主党を政権党に選んでしまいました。

日本の国民は、子どもを虐待から守ることをさほど重要視していないのです。体罰や子どもを性の対象とすることを容認する風潮もそうですし、虐待で子どもを殺した親への甘い判決もそのあらわれです。だから、児童ポルノ問題をはじめとして多くの法制度が不十分なままでも異を唱えず、それをいいことに民主党も子どもを守るための当たり前の法改正に政権党になっても反対し続けるのです。海外からきわめて奇異にみられていることです。

また、虐待により親から分離された子どもの多くは児童養護施設に入所することになります。先に述べたとおり、児童養護施設の設備は劣悪で、そこでの子どもの生活は家庭で育てられている子どもに比べて劣悪です。しかし、施設に入っている子どもは一般家庭の子どもより待遇が劣っていても当然だ、支援する学用品や衣服は使い古しでもありがたいと思うべきだ、という気持ちが日本には強いと思います。

しかも、児童養護施設では18歳までしか入所できず、施設を出てからは子どもは一人で生きるしかないのが実情です。しっかりした親がいる家庭の子どもでも18歳で一人立ちすることができる子どもはほとんどいないでしょう。

これほど虐待を受けた子どもに冷たい制度はないでしょう。それをほったらかしにしている立法府・政府とそれに異を唱えない国民にも大きな責任があります。