1 青森県八戸市で、本年1月7日に5歳の望愛ちゃんが母親と同居男から真冬に水を張った浴槽に服のままいれられ、冷水シャワーをかけられ、低体温症で虐待死させられたとして、同年2月14日に傷害致死罪で逮捕されました。
私は昨年7月に青森県庁を訪問し、担当課に全件共有の上リアルタイムで最新の情報を共有するシステムの整備を要望しましたところ、既に情報共有システムは整備されているのだが、警察に提供される情報がごく一部に限られているということでした。私からは、埼玉県のシステムをご紹介し、より詳しい情報を共有の上連携して対応していただくようお願いをしたところです。システムがどのように改善されたのかは確認していないのですが、このようなシステムが整備されていながら、それが機能せず本事件を防ぐことができなかったことは極めて残念です。
2 報道によりますと、2023年6月、母親と同居男、望愛ちゃん弟が千葉県松戸市から八戸市に転入、7月28日、八戸児童相談所に「男が望愛ちゃんをたたいたりけったりしている」と虐待通告があり、児相が家庭訪問するも二人と会えず(男の親と話したとされている)。9月15日に「激しく口論している」と110番が入り、家庭訪問した警察から児童相談所に通告されたが、9月22日に家庭訪問するも会えず。電話を10回以上かけたが断られていた。10月31日にようやく児相が母親と男、望愛ちゃんと面談。服の上からみてけががないと判断、男が「げんこつを1回した」と話したため、職員が二度としないよう伝えると「分かりました」と答えた。11月16日、八戸市の要保護児童対策地域協議会の実務者会議で市や警察と情報共有。2週間後の児童相談所内の援助方針会議で「これ以上対応の必要なし」と判断し、対応を打ち切った、とされています。
2 本事件で青森県の児童相談所は、
- 本家庭は、若年の母親(16歳で出産か)でシングルマザーと同居男という、これまでも多くの虐待死事件が発生している家庭でありながら(最近では奈良県橿原市星華ちゃん虐待死事件、岡山市真愛ちゃん虐待死事件、摂津市桜利斗ちゃん熱湯をかけての殺人事件など)、虐待リスクが高いという評価をせず、
- 最初の虐待通告を受け、その後警察からも通告を受けながら、家庭訪問しても会えず、電話10回かけても面会を断られ、面談まで3ケ月かかり、
- 面談で男が「げんこつで1回殴った」と言っているのに、長袖、長ズボンの着衣の上からしか傷の有無を確認せず
- 職員が「今後しないように」というと男は「わかりました」と答えたことをもって、その後家庭訪問もせず、対応を終結し、
対応打ち切りの2ケ月後に望愛ちゃんを虐待死に至らしめています。いずれも、虐待から子どもを守る取組として極めて不十分で、青森県には今後は改めていただくことを強く求めます。
3 わが国の虐待対応の大きな問題は、上記のような対応は青森県の児童相談所だけでなく、先日東京都台東区美輝ちゃん虐待死事件を防げなかった東京都の児童相談所をはじめ少なからずの児童相談所で同じような対応をしており、いつまでも児童相談所が関与しながら虐待死を防げない事件を繰り返していることです。
多くの児童相談所では、虐待リスクの判断が極めて甘く、それが子どもの命を守れない最大の原因です。本事件では上記①へ④の対応から明らかですが、先日の東京都美輝ちゃん事件では、東京都の児童相談所は、傷があると5回も保育所から通報を受けても親が否定すれば「虐待でない」と判断するなど一般人から見ても驚くほど親寄りの対応をしています。
多くの児童相談所では、これまでの他県や自県の多くの虐待死事件を貴重な教訓しませんし、親に迎合し、親が虐待を否定すればこれ幸いと「虐待なし」と、「もうしません」と言えば「解決」と判断するなど、親におもねり、虐待リスクを甘く判断し、親の嫌がる子どもを守るために必要な行動をとらない、面会拒否されたなら警察に頼めば警察ならすぐに面会できるのに警察に依頼もせず(東京都目黒区結愛ちゃん事件の東京都の対応。高知県では直ちに警察に連絡する協力態勢が整備)、それでいながら、事件が起こったら、「虐待とは分からなかった」「親との信頼関係は重要(親の言い分を信じた対応をしたので悪くない、親の会いたくないという意向を尊重しただけ)」「職員はせいいっぱいやつた」「忙しかった」から「対応に問題はない」などと弁明し、自らの不作為を正当化します。この問題に取り組んで10年近くになりますが、東京都をはじめ全国の児童相談所の体質は、一部の先進的な自治体を除き、ほとんど変わっていません。
4 次に、本事件は、警察も110番で虐待通報を受け臨場し、児童相談所に通告していますし、八戸市の要対協実務者会議の場で報告も受けていたとされていますが、その後、児童相談所が対応を終結してしまっています。
警察が児相の対応終結にどうかかわっていたのか、現時点では不明ですが、青森県では、情報システムが整備されているのですから(改善されていたかどうかは不明です)、それを有効に活用し、児童相談所と警察が最新の情報をすべて共有し、本件についても両機関で最新の情報に基づいて客観的にできる限り正確なリスク判断をしていれば、こんな早期に対応終結とはならなかったでしょうし、児童相談所と警察が協力して対応していれば、望愛ちゃんが殺害されることは防ぐことができました。
私が、全国の自治体に働きかけている児童相談所と警察との全件共有と連携しての活動、特にリアルタイムで最新の情報を共有するシステム整備が実現し、有効に機能していれば、本事件では次のような対応となっていたものと考えています。
本家庭につき児相に通告が寄せられる
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警察と直ちに情報共有(児相の端末に入力するとシステムで自動的に警察の端末と共有)
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若年の母親と同居男という家庭環境から両機関で虐待リスク「高」と判断(あらかじめ児童相談所と警察とでこのような家庭については虐待リスク「高」とすると定めておく)
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直ちに警察が家庭訪問(虐待リスク「高」の家庭は警察が家庭訪問することとあらかじめ定めておく)
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着衣の下も確認し、けががあれば逮捕(あるいは警告)。場合によっては一時保護(東京都葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件では、臨場した警察官が「夫婦喧嘩」と父親に騙され、着衣の下を確認せず帰ってしまい、5日後に父親により虐待死。遺体には40ケ所のあざがあった。悪質な親ほど背中や尻など外部から見えないところを殴る、水風呂につける、冷水シャワーを浴びせるなど傷が残らない虐待を行っている実情であり、着衣の下も確認しないと虐待を見抜けない)
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その後も引き続き児相、市、警察とが連携して家庭訪問し子どもの安否確認と親らを指導(逮捕に至らなくとも警察が対応することで虐待の抑止力は格段に高まる)
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「対応終結」は児童相談所単独でなく、市、警察と協議して決める
児童相談所と警察とですべての案件につきリアルタイムで最新の情報を共有し、両機関で虐待リスクの評価基準等について申し合わせ、連携して活動する協力関係が構築されていれば、このような事件はほとんど防ぐことができると考えます。
5 兵庫県では、現在、情報共有システムの整備を進めていただいていますが、
01 警察との全件共有のリアルタイム化
県・県警には、事前に情報システムの内容と運用方法についてあらかじめ協議して申し合わせていただくようお願いしています。私がお願いしている両機関の申し合わせ事項の概要は次のとおりです。
(1) 両機関共通の虐待リスク評価基準―親におもねらない客観的な評価基準―を作成する。
ⅰ子どもに傷がある、性虐待のおそれ、危険なネグレクト
ⅱ親が面会拒否、威嚇的・暴力的言動
ⅲシングルマザー家庭に同居男・交際男の出現、通常は同居しない人と同居
ⅳ学校の長期間欠席、保育所・幼稚園の退所、転所
ⅴ親の精神的疾患
などの場合には、虐待リスク「高」とし、子どもの命を守るため最大の警戒心をもって、児童相談所と警察とで連携して対応することとする。
児童相談所がこれらの情報を把握した場合には、児相の端末で直ちにその情報を入力し、それが直ちに警察の端末の画面上にも表示され(見落とさないよう赤色のフラックが立つ、緊急音が鳴るなどの工夫をする)、直ちに警察が家庭訪問し、子どもにけがあるいは衰弱している場合には緊急に保護する。状況は直ちに児相に報告する。
(2) 通告を受けた児童相談所が速やかに家庭訪問できない場合、面会拒否された場合には、警察に依頼し、警察が当日に家庭訪問する(通告を受け3ケ月も会わないなど論外。48時間ルールも遅すぎるので妥当でなく、当日に子どもの安否を確認することを原則とする)
(3) けがの有無は、着衣をめくって確認する。親が拒否した場合には虐待リスクを「高」に引き上げる
(4) 対応終結、一時保護の解除等の場合には、警察、市町村と事前に協議し、その後の子どもの安全を確保する体制について協議し、必要な見守り体制をつくる。
(5) 一時保護を解除し、子どもが自宅に戻された家庭等危険な状況に子どもがいると判断される家庭については、警察が家庭訪問し、子どもの安否を確認し、その状況を児童相談所に報告する(大阪府警で実施している対応)
青森県では、本事件を貴重な教訓として、上記のような申し合わせをしていただき、情報共有システムを有効に機能させ、二度と救えるはずの命を救えないことがないように対応していただくことを強く求めていきたいと思います。
6 他の自治体に対しても、下記の令和5年度の補正予算で措置されたこども家庭庁の予算を利用して、リアルタイムで最新の情報を共有するシステム整備を働きかけてまいります。
令和5年度補正予算案 事業概要(支援局虐待防止対策課)
ただ、本事件で明らかになりましたが、システムの整備だけでは不十分で、それが有効に機能するような運用とすることが極めて重要です。そのためには、縦割りを排除して(東京都のように児童相談所が案件の2割しか警察に知らせないという排他的な対応は論外)、両機関がお互いに信頼関係を構築し、ベストの力で子どもを守るという意識を共通にして、親におもねらない客観的な虐待リスク評価基準その他の申し合わせ事項を作成し、協力して子どもを守る態勢を整備することが必要不可欠です。