1 本年6月19日ころ神戸市で6歳の修くんの遺体が草むらに遺棄されるという事件が起こりました。本件が虐待死かどうか、虐待がなされていたかとの発表が警察からなされていない段階ですが、下記の経緯から、修くんは危険な家庭環境におかれ、虐待を受けていたのではないかとかなりの確率で推測されます。虐待を受けていたという前提で話をいたしますと、本件は、これまでの多くの虐待死事件同様、神戸市の児童相談所が、虐待リスクを極めて甘く判断し、警察に連絡せず、案件を抱え込んだまま対応した事件です。神戸市は警察と全件共有し連携した活動を行っているはずですが、なぜ警察に連絡しなかったのか。警察に連絡していれば、かなりの確率で、こんな結果にはならなかったのにと悔やまれてなりません。
(報道、記者会見等により判明した経緯)
- 母親の妊娠時から行政が支援
- 本家庭には修くんと母親と祖母、母親の弟と妹2人が同居(弟の同居は昨年末から)
- 修くんは保育園にそれまで普通に通っていたが、本年2月ころから休みがちになりがちで、4月21日が最後の登園
- 本年4月20日に保育園職員が尻と肩にあざを発見、修くんは「誰かからされた」と話し、保育園は同月24日に「虐待の疑い」として区役所に通報。同日、区職員が家庭訪問し、あざについいて母親と祖母から心当たりがないと回答を得、修くんには会えず。
- 5月1日、区職員が家庭訪問し、修くんに会うが(この日が面会最後)、あざは確認できず。母親から「子どもが祖母を殴るなど育てにくさがあり、児相で一時保護してほしい」と申し出あるも、翌日祖母から電話で「修くんが行きたくないと話している」と言われ、一時保護せず。同月9日、児相が祖母に電話したところ「一時保護は不要」、6月1日、区の職員が家庭訪問した際も、祖母が「一時保護は不要」と回答
この間、神戸市の児童相談所、区は、警察に連絡せず。付近住民は、「お母さんにどなられている声をよく聞いていた。男の子が2階のベランダに閉め出されて助けを求めてきました」などと(NHK6月23日ネットニュース)と取材に話している。
2 上記の①から④のような事情があれば、これは虐待のかなり危険な兆候と判断できるはずです。そして、神戸市は警察と全件共有する方針をとっているのですから、その方針どおり警察に連絡していれば、警察であればかなり危険な状況にあると判断し(警察でなくとも一般の方でもそう思われるのではないでしょうか)、警察は家庭訪問し、子どもの安否を確認し、付近住民から聞き取りを行ったと思います。
そうしますと、本件では、付近住民は修くんの助けを求める声を聞き、家族の怒鳴り声を聞いていたわけですから、警察はかなり危険と判断し、その結果を児童相談所に通報していたでしょう。そうすると、さすがに、児相も一時保護したと考えられ(最低でも、警察と連携しより多く家庭訪問し、修くんの安否を頻繁に確認していたと考えられ)、こんな悲惨な結果にはなりませんでした。
2 なぜ、神戸市の児童相談所は、このような対応をとらなかったのか。全件共有をいつまでも拒否している自治体であればともかく、なぜ警察に連絡しなかったのか。
この点につき、本月6月25日の日経新聞によると、「神戸市は虐待を確認した場合、全て警察に情報を共有しているが、今回はそもそも虐待があったと判断しておらず「通報を要する状況でなかった」(市担当者)という。」と報じられています。
予想もしなかった理由です。上記のようなかなり危険な家庭環境で、保育園からあざがあり、修くんが誰かからされたと話し、その後保育園を登園しなくなったという虐待の危険な兆候が数多くありながら、なぜ「そもそも虐待があったと判断しておらず・・(警察への)通報を要する状況でなかった」となるのか理解できません。虐待リスクの判断が極めて甘いというしかありません。
3 (1)自治体に全件共有をお願いに行き、児童相談所に拒否される場合、合言葉のように「虐待には程度があって、虐待でない、あるいは緊急性の低い案件は警察と連携する必要がない」と言われます。私はそのたびに、「なぜ、(神様でもない)あなたが、児童相談所が、この案件は虐待でない、緊急性が低い、と間違いなく判断できるのですか」と問いかけます。それで気づいてくれるところは、全件共有を受け入れてもらえるのですが、残念ながら多くの自治体では、「できるんです。私ども児童相談所は専門家だからです」と言われます。「いやいや、これまで児童相談所が、虐待でない、緊急性が低いとして警察に連絡しないまま、虐待死に至らしめている事件が山ほどあるでしょう」と指摘すると、黙りこむ、「虐待リスクの判断は極めて難しく、一つの機関のわずかな情報ではなく、警察の有する情報やその後警察が聞き込みやパトロールにより把握する情報も得て、できる限り多くの情報に基づいて判断した方がいいのではないですか」というと、「そこまでする必要はない」というのが、全件共有を拒否する児童相談所の対応です。
強固な縦割り意識、他機関排除意識の下、自分たちは「専門家」であるという意識からか、虐待リスクの判断が極めて困難なものであるという認識がなく、多くの児童相談所が、自分たちのわずかな情報に基づいて虐待リスクを判断することに何の問題もないと考えていることが、しかも、多くの自治体でリスク判断を誤り虐待死に至らしめている事件を多数起こしながら、それでも変えようとしないというこれまでの対応が、わが国で児童相談所が関与しながら虐待死、あるいは継続した虐待がなくならない根本的な理由です。
(2)神戸市は、全件共有をしているということであり、上記のような考えの児童相談所とは違うと思っておりました。神戸市長さんには直接お願いし、警察との全件共有を受け入れていただき、私も感謝し、安心していたのですが、現場ではこんなことになっていたとは。本件では、あざがあり、修くんが誰かからされたと訴えているにもかかわらず、児童相談所は子どもの訴えを信用せず、「虐待」と認定しないのか。もしかしたら加害者が虐待を認めない限り認定しないという運用なのか。本件は、仮に虐待と断定しなくとも、「虐待の疑いあり」とはさすがに認定すべきでしょう。「虐待の疑いあり」という段階で、警察と情報共有し連携して対応するのは当たり前です。
4 児童相談所のこのような虐待と認定する案件を狭めようとする運用、これ自体大きな問題ですが、その結果、警察と連携して守られる子どもを限定してしまっているのです。このような運用は、警察と連携していれば救えたはずの子どもの命を救えないという事件を起こしてしまうことになるわけです。
本件では、児童相談所について、表面的なものでなく、その発想、運用に根深い問題があることが明らかになりました。多くの自治体でこんな運用が行われているのであれば、児童相談所が把握している虐待の件数はもっと多くなるわけですし、「全件共有」している自治体において、実際には危険な案件でも「虐待ではない」として児童相談所が警察に知らせないまま、本事案のように案件を抱え込んで対応をしている事案が数多くあることになります。本件は、政府・自治体・国民の虐待の現状についての認識に根本的な変更が迫られる、深刻な問題と受け止めるべきです。
他自治体の状況については私どものできる範囲で、調べてみたいと思いますが、こども家庭庁、警察庁でも至急全国の自治体を調べていただきたいと思います。引き続き本件対応の問題点を分析・調査し、神戸市はじめ関係機関に改善を働きかけて参る所存です。