1 本年8月31日に大阪府摂津市でシングルマザーと同居していた男が桜利斗ちゃん(おりとちゃん3歳)に熱湯をかけて死亡させたとして、9月22日殺人罪で警察に逮捕されました。本日(9月24日)NHK関西からインタビューを受け、下記のとおり私のコメントも放送されました。ご覧ください。
報道によりますと、男は昨年10月に母親と交際をはじめ、今年5月から同居していました。摂津市には、桜利斗ちゃんの虐待を疑う情報が複数回寄せられ、児童相談所とも情報共有していましたが、摂津市も児童相談所も警察には連絡していませんでした。母親は2018年に阪南市から摂津市に転入し、見守りの必要ありと連絡を受けていました。摂津市は、昨年1月と今年4月に保育所から「こぶがある」との通報を受け、5月には、母親から男が桜利斗ちゃんをたたいいたと聞き取り、男に注意した、さらに、6月には、桜利斗ちゃんの両ほほにあざがあり、男を強く嫌がっている状況を見た母親の知人から「このままでは(桜利斗ちゃんが)殺されてしまう)」と非常に深刻な通報がありました。しかし、いずれも桜利斗ちゃんの体に外傷は認められなかったこと、母親が特に変わったことはないなどと説明したことなどから市は緊急性はないとの判断は変えないまま、警察に連絡することもなく、殺害されるに至りました。
2 私どもが児童相談所の問題点として指摘し続けている、①警察と情報共有しない、②リスク判断が甘すぎる、特に外傷がないから緊急性はないとの判断は著しく危険、という問題(これは中央公論10月号で児童相談所・厚労省の体質として指摘したところですが市町村も同様です)が、現れた事件です。
まず、①についてです。大阪府・大阪市・堺市の児童相談所は警察と全件共有しています。しかし、摂津市は要保護児童対策地域協議会(要対協)の実務者会議に警察を参加させていません。また、児童相談所は摂津市と協議していましたが、摂津市の担当案件だったから警察には連絡する必要はないとの判断だったようです。摂津市のように、大阪府下の市町村では、要対協の実務者会議に警察を参加させていないところが多いように思われます。厚労省の「市町村子ども家庭支援指針(ガイドライン)」(平成30年7月20日)では、実務者会議には「必要に応じて」警察を参加させるように規定されていることが、自治体が警察を参加させない理由です。岡山県や岡山市等にも何度も要望していますが、このような理由で拒否されています。私どもから厚労省には長年にわたり実務者会議に警察を参加させるよう規定を改めるように要望していますが、厚労省は全く応じません。
次に、②についてです。これだけの通報を受けながら、しかも、「殺されるかもしれない」という通報まで受けながら、さらに、シングルマザー家庭への同居男の出現という男からの虐待のおそれという危険な兆候までありながら、「緊急性はない」との摂津市(及びそれを知っていた児童相談所)の判断は甘すぎます。心理的にハードルの高い通報をしてくれた通報者の思いを無にするような、摂津市の危機意識のなさには驚くべきものがあります。しかし、これにも厚労省に責任があります。
私どもは、東京都目黒区結愛ちゃん事件後、政府、東京都等に全件共有と連携しての活動を求める要望を強く行いましたが、厚労省は全件共有を受け入れず、児童相談所から警察に情報を提供する案件は、「虐待による外傷」等の事案に限定してしまいました(2018年7月「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」)。悪質な親ほど、顔以外を殴る、水風呂につける、冷水シャワーを浴びせると等の虐待を行っているのです。顔に傷がないから、危険性はない、警察と連携する必要はないなどとどうして言えるのでしょうか。
摂津市教委 次世代育成部 橋本英樹 部長の発言として、「この事態(桜利斗ちゃんの死亡)は想像もできない事件ですけども、それまでの経過の中では適切に対応していたと(認識しています)。『なんで?』と」報じられています(TBS 2021年9月23日)。
摂津市の部長には、自分たちのリスク判断の甘さも警察との連携の必要性も全く念頭にないようです。これには上記のような厚労省の方針に大いに責任があり、厚労省の方針がかかる摂津市の対応を招いたと言えます。
3 摂津市長には、要対協の実務者会議に警察を参加させ、役所の縦割りを排し市町村、児童相談所、警察、学校、病院等関係機関がすべての案件を共有の上、協力・連携して活動する態勢を整備し、二度とこのような残酷極まりない方法で子どもが虐待死させられることのないよう要望してまいる所存です。また、大阪府知事には府内の市町村に上記につき指導していただきたい旨、また、厚労省にもずっと要望しいながらいつまでも聞き入れられない、上記の点について諦めることなく要望してまいる所存です。
それにしても、厚労省の責任は極めて重いと痛感します。結愛ちゃん事件後に、私どもの要望を受け入れ、児童相談所から警察への情報提供の対象を外傷がある事案等に限定せず、全件共有を実現していれば、また、市町村の要対協実務者会議に警察を参加させるようガイドラインを改めていれば、どれだけの子どもの命が救えたか。厚労省の体質を変えない限り、いつまでも救える事件が救えない事件が続くだけと感じる次第です。新型コロナ対策も同様です。是非、中央公論10月号「児童虐待対策とコロナ対応にみる厚労省の失敗」をお読みいただければと存じます。