ヨーロッパ、アメリカで感染爆発と言ってもいい状況で、多くの民主主義国でも国家非常事態宣言の発令(アメリカ、イタリア、スペインなど15の国や地域)、「これは戦争状態です」と大統領が国民に呼びかけ、15日間の外出禁止令(フランス)、学校、店舗の閉鎖などすさまじい強制的な感染拡大措置がとられ、日常生活が強力に規制されています。しかし、日本ではこのような日常生活にへの規制はほとんどありません。その上、PCR検査は今の少ないままでいいとか、諸外国に比べても緩やかな学校の休校措置、イベント自粛等の感染拡大防止措置も緩和すべき、という楽観的な意見が、最近「専門家」と称する医師や一部政府や自治体の首長などから出されています。「日本の対応は素晴らしい」などとの自画自賛も見受けられ、諸外国と比べ余りに楽観的な意見が多いことにクラクラします。イベント関係者など利害関係者がその置かれた立場から言われることはよく理解できますし、ワイドショーのコメンテーターが根拠なくしゃべる楽観論を一々批判するつもりはありませんが、国民の命を守る立場にある方々からの意見となると、大いに不安を感じます。
1.まず、日本のPCR検査が諸外国と比べて桁違いに少ないことについて大きな問題があるのではと感じています。それから生ずる大きな問題の一つは、感染の実態を把握しないままでは、そもそも有効な対策を立てることができないのではないかということです。こんなに検査数が少なく、判明している感染者数が少ない状況では、楽観論が出てきやすいわけで、リスク判断を誤らせるおそれがあります。児童虐待で言えば、児童相談所が案件を抱え込んだままで、家庭訪問もほとんどできない状況では、子どもの虐待の兆候に気づくことができません。一方、私どもが要望しているように、児相のみならず警察や市町村、学校、病院、民生委員等で案件を共有し多くの機関の多くの目で子どもを見守れば、虐待の兆候をより多く気づくことができ、危険性の判断、リスク判断がより適正に行えるようになります。それと同じではないでしょうか。
もう少し検査数を増やせば、判明する感染者は確実に増えるのですから、今の時点で感染拡大防止措置を緩和してもいいのではないかという楽観的な判断ははでてこないのではないでしょうか。取るべき感染拡大防止措置の政策決定のためのデータが少なすぎるのではないかということです。
このような意見に対しては、医師や保健所関係者のみならず、一般人からも「検査を増やすと医療崩壊する」という反対意見があるようです。しかし、ここには行き違い、というか誤解があるように感じます。医療崩壊してもいいから、検査を増やせとは言っていません。医療崩壊しない範囲で今より検査を増やすことは可能でしょうから、そういう措置を取るべきではないかと言っているのです。今の検査の在り方、検査数が正しく、これ以上増やしては絶対いけないんだという根拠などないでしょう。
そもそも検査しなければ感染者が減るわけでもなければ、肺炎を発症する人が減るわけでもなく、症状が治まらなければいずれ病院に行かざるを得なくなり、かなり症状が重くなった時点で検査、陽性であれば治療ということになるわけです。その間、感染していることを知らないわけですから、無症状、軽症の人は普通に出勤してしまうし、家庭内で家族への感染防止措置も取ることができず、次々と他人に感染させてしまいます。埼玉県越谷市の家族感染事案はまさにそういう事案で、2月高校生の長女が発熱、母親、父親も発熱、医療機関を何回も受診するもPCR検査受けることができず、2週間以上過ぎて祖母が肺炎になりようやくPCR検査を受け、祖母、父母、長女全員が要請と判明したという事案ですが、早く検査をして陽性と判明すれば、家族特に高齢者への感染は防げたのでないでしょうか。また、この間、家族は検査を受けることができなかったわけですから、出勤その他の通常どおりの生活を過ごしていたでしょうから、会社、家庭等で周りに感染させた可能性は否定できません。医師や看護師、高齢者介護施設や保育所の職員の方などは周りに感染させないため自分が感染していないか知りたいとお思いでしょうし、というよりも、国、自治体がこれらの方に感染拡大防止のため検査してほしいと頼むべき話ではないでしょうか。
「薬がないから検査しても意味ないんだ」という人もいますが、疑わしい症状があっても検査を受けず知らないまま周りに感染を拡大させてもいいということになってしまいます。また、「PCR検査は感度が悪く偽陽性、偽陰性が多いことをお前は知らんのか」とのおしかりも受けますが、それだと今やっている検査も無駄ということになり、説得力はあまりありません。
医療崩壊防止のためには、大阪府が打ち出したように、症状別に、専門病院、一般病院、休業中の病院、借り受けたホテル、自宅で入院、療養するという仕組みが有効だと思います。是非実現していただきたいですが、そのような仕組みを採用し、各地域ごとにシュミレーションをして検査をその範囲内で拡大することとすれば、医療崩壊は防げるのではないでしょうか。少なくとも今のように医師が必要と判断しても検査しない、越谷の事案のように家族の何人もが発熱し同居の高齢者がいても検査しない、という対応は直ちに改め、医療崩壊に至らない範囲で検査を拡大させていく必要があると考えます。
そして、感染者に症状に応じた治療、入院・自宅待機を含めた隔離措置を講じ、感染拡大防止に努めるとともに、少しでも正確な感染実態を把握することにより、休校措置、イベントの自粛その他の感染拡大防止措置の判断をより適正にできるようにするべきと考えます。
現状は根拠のない楽観論に傾く危険性があることを危惧します。
また、WHOは各国に「検査、検査、検査」(テドロス事務局長)と検査徹底を呼び掛け、アメリカは1か月で500万件の検査をする方針と、韓国ではドライブスルーのみならずウォークスルーで検査すると報じられています(3/17TBSニュース23)。日本の方針と他国の方針は大きく異なります。医療崩壊は避けないといけないと他国も当然考えていると思います。専門家でない私にはどちらがより適切なのか断言できる根拠は持ち合わせていませんが、日本の現状には上記のような懸念を持っています。医師の方には、どのような方策が最も有効なのか、是非説得力ある「専門的」な知見を期待します。
2.日本では全校休校措置要請が安倍総理からなされ、ほとんどの学校で休校措置がとられました。前のメルマガでも述べましたが、私は東京都知事あてに要望書を出し、国にも出そうと準備している間に安倍総理が決断していただき大変すばらしい決断と感謝しております。もちろん、準備期間が少なく様々な混乱が起きたことなど問題点は多々ありますが、感染拡大防止のためには大勢の人と接触する機会を減らすことはは効果があることは間違いありません。中国武漢の都市閉鎖をはじめ、最近ではイタリア、スペイン、フランス、アメリカなどでは、休校は言うに及ばず、外出禁止、店舗閉鎖、集会の禁止等すさまじい感染拡大防止措置がとられ、日本とは比較にならないほど強力な対策を取っています。
これらの国の対策と比べるとはるかに穏やかな日本の休校措置についてすら、一部野党や党派性の強い一部マスコミからの批判(これは批判のための批判だと思いますが)、「専門家」と称する医師の多くが反対、あるいは「エビデンスがない」などと批判しました。「エビデンスがないから休校すべきでない」との医師の反対意見については、山中伸弥教授が「大切なのは早く対策をすること。人類が初めて経験するものだからエビデンスが無くて当然。今は大袈裟なくらいの対策をして、エビデンスが集積してから少しずつ緩めていけばいい。ライブ活動やジムのインストラクターなどで生計を立てている方々の経済的問題があるが、その保障や支援策も1日も早く進めるべき」と同意を示した。」と報じられているとおりだと思います。
また、純粋に感染拡大防止のためには、休校措置など人と会う機会を減らすことが有効であることは疑いなく、一方で経済的・社会的損害が生ずることは分かり切ったことで、「経済的・社会的損害が出るから反対」というのは全く意見となっていません。感染拡大の危険と対策により生じる経済的・社会的損害との比較考量で、損害を甘受しても苦渋の決断で決すべきことです。それは国民に責任を負う政治が総合的に判断して決めることであり、医師が判断できることではありません。テレビのワイドショーで中国からの入国制限につき、ある感染症の「専門家」の医師が「経済的損害が大きいから反対」と発言していました。経済界がこのような発言をするなら分かりますが、この医師は損害がどのくらいか分かった上で発言しているとは到底思えず、自分の狭い知見で根拠なく断言しており、自ら信頼をなくしてしまっています。これについては、児童虐待の「専門家」と言われる医師が、要対協実務者会議の在り方を検討する厚労省の検討会で、元々厚労省は「要対協実務者会議に警察を可能な限りいれる」という考えだったのですが、加藤 曜子 流通科学大学教授から反対意見が出され、それを受け、日本子ども虐待防止学会会長の奥山真紀子医師が「警察がコントロール効かないのですよ。こうしないでと言ったことをしてくれちゃうのですね。それで上手くいかなくなるというケースが結構多いので、今の段階では「必要に応じて」なのではないかなと思うのです」と発言したことが想起されます(平成29年3月29日市区町村の支援業務の在り方に関する検討ワーキンググループ第8回議事録p28)。結局「市町村子ども家庭支援指針」(ガイドライン)には「実務者会議について、必要に応じて警察署の参画を求め、情報共有、意見交換等を行う。」と記載されてしまい(p100)、現在も警察はあまり構成員とされていません。このような反対意見が「専門家」から出されなければ、ほとんどの市町村の実務者会議で警察が構成員とされ関係機関の連携がより図られたことと思います。要対協実務者会議は素晴らしい仕組みです。多くの関係機関が参加し虐待案件を共有して連携して子どもを虐待から守る場なのです。警察を排除すると実務者会議の機能は大幅に低下してしまいます。千葉県野田市の実務者会議も警察は毎月参加するようになったのは平成30年度からです。このような反対がなされなければ、野田市の実務者会議に警察が以前から参加していたでしょうし、学校や市が異常な父親への対応を警察と連携して行うことにより心愛さんを救うことができたのではないでしょうか。厚労省にはこのような経緯を踏まえ、「市町村子ども家庭支援指針」(ガイドライン)につき、実務者会議に警察を「可能な限り」参画させるよう改正し、市町村に指導していただきますようお願いいたします。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000170060.pdf |
医師、学者に限りませんが、「専門家」に期待されるのは「専門的」な知見であって、自分の専門でないことに、幅広い観点から考慮されるべき事項に、自分が経験したわずかな事例、あるいは他職種への無理解(日本における専門職種の閉鎖性、他職種との連携を嫌う体質についてはよく指摘されているところです)、あるいは単なる好き嫌い、思い付きで、有効な対策に反対することは決して取ってはならない姿勢・態度です。他職種との理解、連携こそ必要です。
新型コロナウィルス問題で「専門家」の医師に期待することは、
〇わが国の推定される感染者数の実態
〇イタリア、スペイン、フランス、アメリカなどでなぜ感染拡大防止に失敗したのか。必要な隔離措置をとるのが遅かったと推測されるが、そこから日本が得られる教訓は何か。
〇中国、台湾などでは感染拡大防止に効果があったと考えられるが、どのような措置が効果があったと考えられるか、そこから日本が得られる教訓は何か。
〇スペイン風邪など過去の大感染で、効果のある対策は何か(たとえばセントルイス市の早めの休校措置)。
などが考えられます。
そして諸外国の対策と比較して、日本の休校措置やイベントの自粛、出勤抑制措置などの対策はどう評価されるべきか、行き過ぎなのか、緩すぎるのか、いつまで続けるか、いつ解除するかなどの判断についても、少ないPCR検査数を前提とした楽観的な評価とならず、政治が適切に判断できるよう専門的な知見を提供することを期待します。
現在の報道やワイドショーを見る限り、一部からエキセントリックな批判を受けながら専門家として必要な意見を述べられ、立派だと感じる方も少なからず見受けられますが、「エビデンスがないから反対」とか、マスコミに迎合し余計な専門外のことに口を出す、あるいは、弊害があることを理由として感染拡大防止措置(休校措置、イベントの自粛等)に否定的な見解の医師が多数のように思われます。前にも述べましたが、このような対策に弊害があるのは政治家にも一般人にとっても分かりきったことであり、それでも国民の命、健康を守るために必要かどうかということを、「専門家」である医師は、世論やマスコミ、自ら所属する学会などに迎合することなく、専門的な知見と良心に基づき、過去の対策、外国の対策も踏まえ、説得力を持って説明してほしいということなのです。それを「専門家」が「弊害があるから反対」では一般人と変わらないのです。