1.心愛さん虐待死事件の父親の公判が2020年2月21日ようやく始まりました。公判で
虐待の残虐極まりない内容が続々と明らかになり、改めて心愛さんの受けた耐え難いほどの恐怖と苦しみを思うと胸が押しつぶされそうになります。そして、それを放置した千葉県の児童相談所のずさんな対応に怒りが収まりません。せめてかくも悲惨な事件を起こした千葉県の児童相談所が真摯に反省し再発防止策を取っているのならともかく、いまだ千葉県(千葉市も)は、警察等関係機関と全ての案件を共有の上連携して対応することを拒否し、職員の増員等で対応しようとしています。
あとで触れますが、このような千葉県の児相の対応は現場の職員に疲弊をもたらし、増員しようにも「今年度24人の採用を予定していたのに対し、試験に合格した人は半数の12人、県の児童相談所で今年度定年以外の理由で退職する人は17人と昨年度よりも4人増えている」(NHK令和2年2月20日)と応募する職員が集まらず、退職者が増加する状況と報じられています。
2.本事件では少なくとも次の7回、児相あるいは学校が警察に連絡すれば、心愛さんは確実に救うことができました。
- 心愛さんが学校にアンケートで父親からの暴力を訴え、児相に連絡。一時保護。
- 児相が市にも警察にも連絡せず一時保護を解除し祖父母宅に戻す
- 父親が学校にアンケートと念書を求め、学校が渡してしまう
- 児相が父親から強く求められ心愛さんの「自宅に戻りたい」という手紙を見せられ、自宅に戻すことを決定
- 自宅に戻されてから児相が心愛さんから「家に帰りたいという文書を無理やり書かされた」と聞く
- 心愛さんが長期欠席。父親が小学校に「娘は沖縄にいる」と連絡
- 児相が心愛さんの長期欠席を知る
上記は「心愛さんの虐待を受ける危険な兆候・出来事」です。
(1) ①で学校は児相に連絡し、児相は一時保護しましたが、そのあとが無茶苦茶です。
子どもが10発も殴られているというひどい犯罪の訴えなのですから、学校・児相は警察に連絡すべきであり、そうしていれば警察が逮捕し(最低でも警告)、父親への虐待の抑止力が図られ、心愛さんは虐待死させられることはありませんでした。
⇒(再発防止策)この点、2019年5月の文科省の「学校向け虐待対応の手引き」で学校は外傷事案等は警察に連絡するよう義務付けされましたので、今後全国の学校がこれを遵守すれば再発防止を図ることができます。
(2) ②の児相の一時保護の解除が不適切であったことは既にいろんなところで指摘されているとおりで、一時保護の解除を児相の独断ですることとされている法律の不備です。これまでの多くの事件で児相は親が怖く、親におもねり、危険な案件で一時保護を解除し、その後虐待死に至らしめています。何度も言っていますが、児相が虐待親を怖いと思うのは仕方がないことです。しかし子どもを犠牲にして言い訳がなく、そのためには毅然と親に対応できる警察その他の機関と連携して対応するしかないのです。しかし、児相は市や警察に連絡せず、独断で解除してしまいました。
⇒(再発防止策)一時保護の解除を市、警察等関係機関と事前に協議することを義務付ければ、安易な解除は抑制されます。直ちに全国の児相でこのように運用することで再発防止を図ることができます。
(3) ②の一時保護解除、④の父親宅に戻してしまう決定時には、極めて危険な父親であることは明らかだったのですから、せめて、頻繁に家庭訪問して心愛さんの安否を確認すべきでした。ところが、千葉県の児相は驚愕すべきことに一度も家庭訪問していません。また、③、⑤のような危険な兆候は警察等多くの機関で共有し、多くの機関が危機感を持って対応することができるようにすべきでした。特に⑤を知ったのであれば再度一時保護する、最低でも極めて危険な父親として頻繁に家庭訪問するなどの措置が必要でした。
⇒(再発防止策)一時保護解除後は、市、警察、学校、民生委員等関係機関と協力し、人手を出し合って頻繁に家庭訪問し、子どもが虐待されていないか確認することとすれば、再発防止は図ることができます。また、一つの機関が把握した危険な兆候は全ての機関で直ちに共有し、虐待リスクを正確に判断し、適切に対応できる仕組みとする要対協実務者会議の機能強化を図る必要があります。
(4) ⑥、⑦の「長期欠席」は典型的な「虐待の危険な兆候」です。一般人でもかなり心配になります。それを虐待の専門機関である児相がその事実を知りながら放置するということは、怠慢を通り越して、危険な状況にある子どもを助ける気がない、と評価されるものです。この時点で学校あるいは児相が警察に通報すれば警察が直ちに急行し、衰弱していた心愛さんを救うことができました。
⇒(再発防止策)長期欠席等の危険な兆候があれば学校、児相等は必ず警察に連絡し、警察が直ちに安否を確認し、衰弱等していれば緊急に保護するという制度とすれば、再発防止を図ることができます。
3 以上のような再発防止策が必要と考えますが、検証報告書でも、マスコミの記事も「児相職員の増員が必要」「専門的能力の向上が必要」などと指摘するのみで、ほとんど取り入れられていません。心愛さんを救えなかったのは、職員の数が少ないからでも、専門的能力がないからでもありません。ここまで危険なことを平気で行うほど、千葉県の児相職員もバカではないですし、専門的知識がないわけでもありません。ましてや人手がないからでもありません。親が怖いのです、虐待親が怖くて、毅然と対応できないにもかかわらず、警察等他機関と情報共有し連携して対応しないという驚くべき閉鎖的体質に問題があるのです。
この体質を変えないと、いくら職員を増員しても、怖いものは怖いのですから何も変わりません。再発防止のためには千葉県(千葉市も)が警察と全件共有し連携して対応する態勢を整備する(この中には、一時保護解除の事前事後に警察等他機関と密接に連携する、長期欠席など危険な兆候の場合には警察等他機関と直ちに情報共有する、面会拒否されたたら警察に連絡し一緒に家庭訪問する等も含みます)しかないのです。
さらに、児相は増員や専門的能力の向上という前に、児相が把握する虐待家庭の情報をできるだけ多く把握する態勢とする必要があります。児相だけでは把握できる情報はごく一部です。警察等他機関と案件をすべて共有すれば、多くの案件で警察等他機関の保有する情報が児相に集まり、児相が虐待リスクをより正確に判断できるようになり、一時保護等の判断もより適切にできることになります。ところが、千葉県、千葉市、東京都などの児相は警察との全件共有を拒否することで、みすみす警察から得られる情報を得られないことになっています。少ない情報しか把握しないままで、「専門的知識を向上させて、正確に虐待リスクを判断しろ」というよりも、「把握する情報を多くするために警察等と案件を共有しろ」というのが筋ではないでしょうか。警察と全件共有することで多くの案件で児相がより多くの情報を得られるようになり、より正確な判断ができるようになるのです。千葉県、東京都などの児相はみすみす警察の持っている情報はいならないと言っているようなものです。
4.児相と警察との全件共有と連携しての活動に反対することは、児相の職員に「全件につき虐待リスクを正確に判断しろ。警察からの情報提供も受けなくていい(警察は案件を知らされないとその家庭の情報を持っていても児相に提供できません)」「親が怖くとも毅然と対応しろ、警察と連携することなく」「警察と連携せず自分たちだけで対応しろ、スーパー児童相談所になれ、スーパー児童福祉司になれ」と言っているようなものです。これは、現場の職員に無理を強い、疲弊させ、結果的にやっぱり無理で、子どもを救えない結果を招くだけです。警察と連携すれば児相職員の負担も大幅に減るのです。それを拒否するから現場の職員は疲弊してしまうのです。
前で触れましたが、千葉県が増員しようにも「今年度24人の採用を予定していたのに対し試験に合格した人は半数の12人、県の児童相談所で今年度定年以外の理由で退職する人は17人と昨年度よりも4人増えている」と報じられており(NHK令和2年2月20日)、応募者が集まらず、退職者が増えています。警察と連携することで職員に無理な業務をさせないという合理的な対応を拒否し、職員に無理を強いるブラック職場となっているのではないでしょうか。
政府や東京都、千葉県等のとんでもない不作為を改めさせるためには、多くの国民が立ち上がり、行政に強く求めなければならないのですが、本来その側に立つべき「日本子ども虐待防止学会」などの「専門家」の方が、政府や東京都、千葉県の側に立ち反対声明を出し、その会長がマスコミで反対を公言されるなどの現状では、彼らはお墨付きを得たとばかりに連携しないことを正当化します。「専門家」の方には子どもたちを救うために方針を改めていただくことを心からお願いする次第です。