ブログ99 虐待事件だけでなく座間事件、いじめ事件からも明らかな情報共有の必要性

1 座間事件の被害者について、行方不明となった時点で家族から警察に対して行方不明届けが出され、福島県警察や埼玉県警察など多くの警察が特異家出人として捜索や捜査活動を行っていました。その結果複数の被害者の携帯電話が座間、海老名、藤沢でその後の位置情報が途切れ、この周辺で何らかの異変があったことが示されていましたが、その連絡を受けていた神奈川県警察ではそれらを総合的に判断して、本事件の端緒をつかむことはできませんでした(2017年12月1日朝日新聞)。
 この事件もまた、情報共有の必要性・有用性を明らかにしたものです。年間5万6千人にも上る特異家出人についてどこまで警察力を割くことが出来るかという問題はありますが、たとえば子どもないしは20代の特異家出人の携帯電話が不通になった事案について一定の地域ごとに集約を図ることとし、同一の地域で短期間で複数の事案が生じた場合には直ちに把握できるシステムを整備すれば、今後このような事案で早期に本格的な捜査を行うことが可能になると考えられます。

2 同じく神奈川県で2014年に発生した有料老人ホームでの3人の入居人を転落させ殺害したとして介護職員が逮捕され事件がありましたが(2016年2月逮捕)、3件同じ施設で転落死が続きながら、捜査一課から各事案で別の検視官が派遣され、いずれも「変死」として処理され、捜査一課は同じ施設で転落死が相次いでいることを把握できませんでした。管轄の幸警察署から捜査一課に同じ施設で連続した転落死が起こっているとの情報が捜査一課に伝えられてから本格的な捜査が開始されたとされています。捜査一課ではその後、同じ場所で事故が起きれば把握できるシステムを整えたとされていますが、情報集約・情報共有の必要性が痛感された事件です。

3 所在不明事案・虐待事案も同様です。所在不明児童として母親に各地を転々と連れ回され、学校も通えず、野宿なども強いられていた少年が、母親から祖父母を殺してでも金を借りてこいと言われ、祖父母を殺してしまったという事件について(懲役15年確定)、少年が野宿している際に度々警察官に職務質問されていたこと、児童相談所が一時保護を提案しながら母親に拒否され、一時保護をしなかったことなどが報じられています(平成27年8月29日の読売新聞)。
 私どもの求めるように、被虐待児・所在不明児童に関する情報共有を自治体・警察・児童相談所に法律で義務付けた上、所在不明児童の調査・保護の積極化を実現していれば、この少年は保護され、このような悲惨な事件は起こらなかったはずです。具体的には現場で活動する警察官が、警察活動中に出会う子どもが所在不明児童あるいは被虐待児であることを把握できる仕組みがあれば、この子どもは被害者でありながら、殺人を犯してしまうという境遇になることを防ぐことが出来ました。ところが、所在不明児童や被虐待児について、児童相談所や市町村が警察に情報提供しないことから、現場で活動する警察官がせっかく保護できる機会をみすみす逃しているのが実情です。
同様のことはいろんな場面で起こっています。本件のような家庭、あるいは深夜はいかい、家出をする子どもは、現場の警察官が把握する機会が多くあります。それが現在は、児童相談所も市町村も警察に情報提供しないので、現場の警察官がそこにひそむ問題の深刻さを把握できず、折角の保護の機会を失してしまっているのです。
 虐待が原因で深夜はいかいや家出をする子どもは数多いですが、警察は保護してもそのまま家に戻すだけです。児童相談所から情報提供があれば、保護した際に児童相談所に連絡し、連携して家庭訪問し、保護者を指導できるはずですが、そのまま家に戻すだけですので、深夜はいかいや家出の防止にも、虐待の防止にも全くつながりません。
 虐待案件では、葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件がそうでした。児童相談所は愛羅ちゃんの家庭を把握していましたが、警察に情報提供しないままでいたところ、当該家庭に110番が入りましたが現場に赴いた警察官が親に「夫婦喧嘩」と騙され、愛羅ちゃんの体を詳しく調べず虐待を見逃してしまい、その5日後に虐待死させられてしまいました。遺体には40ケ所ものあざがありましたので、児童相談所が警察に情報提供していれば、警察官は虐待を見逃すことなく愛羅ちゃんを保護することが出来ました。
 2015年2月の川崎市の上村くん殺害事件でも殺害される1週間前に110番で警察官は上村くんと加害少年と接触していますが、学校から警察には上村君の不登校等の情報の提供がなかったため、通常のトラブルとして「もうけんかするなよ」と説諭するだけで終わってしまっています。深刻な案件だと分かれば、加害少年の補導・警告、上村君の保護などいろいろとできたでしょうから、上村君が殺害されることは防げた可能性は高いと思います。
 24時間365日、深夜でも、現場で多くの警察官が活動しています。現場の警察官が被虐待児やトラブルを抱えている少年、所在不明児童やその家族と接する機会は大変多いのです。しかし、児童相談所や市町村、学校等と情報共有がなされないので、折角保護できる機会を見過ごし、救えたはずの多くの子どもの命が救えないままなのです。

4 学校内のいじめ事件でも同様です。新潟県新発田市で中学生が自殺した事件で、担任教師にいじめを相談していましたが、それが学校内で共有されず、他の教師はその生徒が複数の生徒から追いかけられているのを見ながら、鬼ごっこをしていると思ったなどと何もしなかったとされています(2017年7月3日毎日新聞)。学校内で情報共有がされていれば、自殺は防ぐことが出来たと思われます。神戸市の私立女子高で女子高生が自殺を図り命を取り留めましたが重傷を負った事案でも、学校内で情報共有が図られていれば自殺は防げた可能性が高いという第三者委員会の報告書が出されています(2017年11月27日神戸新聞) 。

5 以上から明らかなように、殺人事件であれ、虐待事件であれ、いじめ事件であれ、関係機関の間で必要な情報共有がなされず案件を抱え込んだままでは被害者を守り、救うことはできません。特に、上記のように警察は、現場で365日24時間警察官が街頭活動をしており、虐待やいじめ、ストーカー、DVなど命の危険にさらされている人たち(被害者)、あるいは命を脅かしている人たち(加害者)と遭遇する機会がかなりありますので、そのような機会に、現在遭遇している相手が被害者であると分かれば保護する、加害者であれば指導・警告・逮捕等事案に応じた適切な対応が取れますが、知らないままではそれができないリスクがあるのです。上記東京都葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件がその典型です。

 関係機関が情報共有の上連携して活動すれば守ることができる虐待事案やいじめ事案について、情報共有すら行わないことは、子ども、被害者を守ることを放棄することです。このようなサボタージュが許されるはずはありません。
 学校では度重なるいじめ自殺事件が防げなかった理由として、いじめの情報共有がなされていないことが大きな原因という認識が文科省、知事・市長や有識者などの間にも強まりつつありますが(たとえば、兵庫県の井戸知事は上記いじめ自殺未遂事件について「(学校側が)自分たちだけで解決しようとしてしまうのが一番の問題点。」と発言され(上記神戸新聞)、「担任一人で抱えず共有を」と新井肇関西外国語大学教授が主張(朝日新聞2017年11月22日)されるなど多数)が、子ども虐待問題では全くありません。厚労省は私どもの情報共有の要望をいまだ拒否していますし、情報共有を求める要望書を提出した東京都、大阪府・大阪市・堺市、兵庫県・神戸市、愛知県・名古屋市などの知事・市長もいまだ応じていません。
 児童相談所は案件の抱え込みを止め、警察等の関係機関との情報共有と連携しての活動に取りくみ、命の危険にさらされている子どもを一人でも多く救うことを強く求めるものです。