ブログ66 児相が情報共有を拒み続けると、警察に虐待通報された子どもがより守られることになるがそれでいいのか

1 現在、いくつかの警察で、東京都葛飾区愛羅ちゃん虐待死事件を教訓とした私どもの要望を受けいれていただき、警察に110番通報されるなど警察が自ら把握している虐待案件につき、110番通信指令システムに登録し、再度110番が入った場合には、現場に向かう警察官にその旨指示することにより、虐待の見逃しを防ぐシステムが整備されつつあります。そうすると、児相に通報された虐待案件について児相が警察との情報共有を拒み続けるならば、警察に通報された虐待案件は警察官が虐待を見逃すことのないように対応できることになるのに対して、児相に通報された虐待案件は警察官が虐待を見逃すリスクを負ったままとなります。これらのことが広く知られれば、多くの国民は児相にではなく警察に通報するようになると思いますし、児相は一体何をしているのだと児相に対する不信感はますますおおきくなると思います。一刻も早く、児相には警察との情報共有を実現してほしいと思います。

2 さて、2015年9月28日の産経新聞によると、5歳の長男の腕に熱したオーブントースターの受け皿を押しつけてやけどを負わせたとして、静岡県警富士署は28日、傷害の疑いで、父親を逮捕した、と報じられています。富士署によると、弟(3)とけんかをしていたので止めようとした、と容疑を認めている。長男が通う幼稚園の教諭が14日、やけどの痕を見つけて富士市に通報した。兄弟は児相が一時保護した。富士市によると、平成25年9月ごろ、容疑者の自宅周辺の住民から「子供の泣き声と親の怒鳴り声がする」と通報があった。市や児相は26年6月から、自宅を訪問し、面談を実施していた、とされています。

 市と児相が関与しながら、虐待のエスカレートを止めることができませんでした。虐待死に至らず不幸中の幸いです。この報道によると、通報から市や児相の家庭訪問までなぜ9ケ月も空いているのか、市と児相は家庭訪問を実施したとしているがどの程度の頻度で実施したのか、幼稚園から通報があるまで虐待の兆候はなかったのか、児相や市の指導が虐待の抑止に効果がなかった理由は何か、もっと早く一時保護すべきでなかったのかなど、多くの事項につき検証されなければなりません。児相が家庭訪問しながら、虐待死させられたケースとして、東京都足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件、千葉県市原市乳児虐待死事件、名古屋市中学2年男子生徒虐待死事件、群馬県玉村町3歳男児虐待死事件など・・・枚挙にいとまがありませんが、本件のように児相が家庭訪問しながら、指導に効果がなく、(虐待死には至らないが)虐待が継続しているというケースは膨大な数に上ると思います。

3 私どもシンクキッズの法改正案では、児相と市町村と警察が虐待情報を共有して、連携して事案に応じて適切な頻度で家庭訪問し、子どもの安否確認と親への指導支援を行うことを制度化することを求めています。本件でも、児相と市町村に加え、警察とも情報共有して、警察も連携して家庭訪問し、親への指導・支援を行っていれば、家庭訪問の頻度は上がりますし、警察が家庭訪問に加わることで親への虐待抑止の効果ももっと上がったのではなかったでしょうか。ストーカー加害者に警察から指導警告するだけで8、9割がおさまります。ストーカー事案のほとんどについて捜査も検挙もすることなく、解決されているのです。警察に知られたということで、8、9割の人間はストーカー行為をやめるのです。虐待をする親も同様ではないでしょうか。児相や市町村の職員に知られたと分かっていても、かなりの親は虐待を止めないと思いますが、警察に知られたと知りながら虐待を続ける親は、ストーカー加害者と同様かなり少ないと思います。警察の家庭訪問は捜査や逮捕が目的ではありません。子どもの安否を確認するとともに、親の相談にのるなどして虐待を抑止することが目的です。ストーカー同様、重大な傷害や強姦などのケースを除き大部分は捜査や逮捕は必要ないのです。それでも虐待をやめないケースは、子どもの命を守るため子どもを一時保護するとともに、親に対しては危険なストーカーと同様に、逮捕ないしは専門的な精神的な治療・カウンセリングを促すしかないのですが、児相がたまにしか行わない家庭訪問に比し、児相が警察と連携して家庭訪問したほうが格段に虐待のエスカレートを防ぐ効果があることは間違いありません。

4 子ども虐待は一つの機関だけで対応できるものではありません。しかし、現在、高知県を除いては、児相は警察と情報共有していません。その結果、

①児相が案件を抱え込み、家庭訪問をほとんどせず、みすみす虐待死に至るケース(東京都足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件等)や本件のように長期間虐待が継続するケース

②児相が把握している家庭につき住民から「子どもの泣き声がする」との110番があり警察官が現場に駆け付けながら、親から「夫婦喧嘩だ」と騙され、子どもの体を調べず帰ってしまい、その数日後に虐待死させられるケース(東京都葛飾区2歳女児虐待死事件)

など多くの子どもの命を救えない事態が続いています。

 警察と情報共有し、連携して活動することで、①危険な家庭により頻繁に家庭訪問することができ、虐待のエスカレートを抑止できる、②110番が入った場合に警察官が親に騙されることなく適切に子どもを保護することができ、かつ、その対応結果を児相にもフィードバックすることができるのです。また、子どもの家出や深夜はいかいが大変危険なことは、本年に発生した大阪府中学生男女生徒殺害事件、川崎市中学1年生男子生徒殺害事件からも明らかですが、警察は家出や深夜はいかいの子どもを連日多く保護しています。こうした場合、警察は親に連絡してそのまま家に戻してしまいます。しかし家出や深夜はいかいする子どもの多くは、家にいたくない事情―虐待やネグレクト、親の不適切な生活態度―があることが少なくないにもかかわらず、現状は、児相から情報提供がありませんので、児相の把握している虐待・ネグレクト家庭であっても、そのまま家に帰してしまっています。③児相との情報共有ができれば、警察が家出・深夜はいかいで保護した子どもが虐待されていると判明した場合には、児相に連絡してその後の親の指導に生かすことができ、家出・深夜はいかいの原因を解消することができるのです。

4 以上のとおり、児相と警察との情報共有と連携しての活動は、多くのメリットがあり、日本の児相より20、30倍の態勢のあるアメリカやイギリスの児童保護部局でも警察との情報共有と連携しての活動は当然のこととされており、態勢の貧弱な日本で行わない理由が全く分かりません。最初にも述べましたが、警察は自ら把握している被虐待児を守るため色々な取組ができるわけで、現在行っていただきつつあります。それらを進めれば進めるほど、このまま児相が情報共有を拒み続けるならば、警察に虐待通報した子どもの方がより守られるということになるのです。子ども虐待は一つの機関だけで対応できるほど甘いものではないのです。児相には一刻も早く考えを改めてほしいと思います。